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 ふぅ、と漸く一息を吐きテレビをつけて見た。
 時間帯的にはまだ、ゴールデンタイムというやつなのだろうか。ライブは終わった頃かもしれない。

 大きめのテレビ。意識を滑りながら番組表を何周かしていた。途中でぼんやりとしてリモコンを手にしたままになる。

 程よく眠くなってきたタイミングで、誠一が風呂から上がったのを感じ少しだけ目が覚めた。

 誠一は見にくそうに目を細め、やっぱり見えなかったらしい、ソファに座って眼鏡を掛け直す。
 「あ、警察24時やってる」と、彼には案外そういうところがある。

 自分も風呂に入ろう、汗かいたし。ライブハウスのことが浮かんできた。

 「あ、終わっちゃったな」と言う誠一の独り言を背にし、自分も風呂場に向かった。

 この時間は唯一、一日の反省が出来る。

 賢者タイムのような物でもある。5曲目くらいから腕がった、というよりも手首がなんだかまごついてピックも吹っ飛ばしそうだったし、テンポも徐々に遅れていった。

 …メンバーと比べればそれほど弾く立ち位置にないのに。
 それでもまぁ、多分、演奏者でない観客にはわからない程度だったかもしれないけど。随分、バッキングに投げてしまったな。

 そういえば鼻声と言われたし、「んー、んー」と声を出してみた。けど、暖かい風呂場ではあまり意味もないか、と「あー、あー」と出してみる。
 でもそれも、歌ったあとだ、このひりつきが“あれ”のせいかも判断出来ない。

 自分の身体が思うように動かないのはもどかしい。頭ではわかっている、自業自得だ。後悔は、先に立たないと言うし。

 湯船で手でも揉んでみようかな、でも……少し怖いからやめた、血が廻ってしまう。
 怖いと思えるほどには成長したのだろうか。

 さっさとシャワーを浴びてリビングに戻った。綺麗さっぱりだ、モヤモヤも。

 タバコの臭いがする。
 誠一はどうやら無難に夜のニュースを眺めることにしたようだ。
 タバコを指に挟んだままそのポリ袋を見せてくる彼に、こういうところもあるんだよな、とぼんやり思う。

「いくらした?」
「いや、お試しでなんか、2本くらい貰ったのと1本然り気無くがめました」
「Gメン並だね、口紅付きだよ。謳い文句にしよう」
「それやると興奮しちゃう、良い匂い、て言ってましたよ」
「無難だなぁ…難しー。…でも、まあ開けてみないことには、わからないよね」

 ポンポン、と、わざわざソファへ促される。
 機嫌が良いのは間違いないだろう。

 出方を伺っていると、誠一はその中から綺麗な一本を取り出し、指に挟んで吸い口をこちらに向けてきた。

 そうきたかと誠一をまじまじと見ると、まるで子供のように楽しそうな表情なのだからどうしようもない。

 こちらが何も言わないでいても、口の側までそれを持ってくる。
 咥えると彼はまるでホストのように手を添えてジッポを擦った。

 一口吸って溜め息を吐いた。誠一は面白そうにこちらを見ている。
 やっぱり、プラスチックみたいな臭いだ、人工物というか、目に染みる。二口目で一気に涙腺が緩み涙が意思もなくだばだばと流れ始めた。

 流石に引いたような表情で、悪ふざけを仕掛けた当の本人は元凶を取り上げ、疑問そうに煙を眺めている。

「…セイさ、」

 睨み付けるが徐々に、喉が熱くなった、語尾が爛れていく。

 なるほど、確かに下半身が…熱い、ぐっと一気に苦しいほど…痛痒く疼いて前のめりに下腹部を押さえずには耐えられなくなった。
 これは苦しい、声を殺しながらいれば一気に呼吸も早くなり冷や汗まで出始める。

 これは、死ぬ。

 あまりに急にきたせいか、誠一はすぐにゲジゲジと灰皿でそれを消したが、灰皿からポロっと出てしまうほど雑だった。

「…ごめんごめん」

 背を抱き締めるように擦りながら、テーブルに置いてあった常備薬に手を伸ばしては「いや、」途中で方向転換したらしい。

 自分をソファに寝かしつけ、急いで寝室から救急箱を持ってきた。
 誠一がそこからアドレナリンを取り出し、寝巻きは捲られ太股に注射針を刺された。
 その痛みに「うぅっ…っ!」と流石に声が出る。

 誠一はまたソファに座り、濡れた髪も躊躇いなく膝に置いてくれた。

 視界がぼやける。きっと、彼が眼鏡を外したらこんな世界が見えるのかもしれない。

 症状も急激だったが5分もすれば徐々によくなる。
 潤む視界は彼の指でがっと開かれ、点眼薬を両目に差された。

 はぁはぁするのも10分すれば治まってくる。胸あたりを撫でながら「…どう?薬飲めそう?」と、悪いことをした自覚はあるようだった。

「…飲ま、せて」

 少し戸惑ったような間があったが、彼は穏やかに「わかった」と、常備薬を開けてくれた。
 半身を支えながら、あ、水と言う彼に「大丈夫…」と喉がいがいがする。

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