19
何かが身に付くのは嫌だった、反抗期で片付ける自分も。
親は選べない?何も出来ないだなんて、そんなもの、言い訳だ。
仏教の僧侶は男とならしてもいい、けれどクリスチャンは同性愛を嫌う。倫理観がわからない。
「えっと…」
「うん…」
今日は、本当に誰もいない、石丸くんの家。
足を開いてみるけれど、やっぱり恥ずかしい。それこそ鼻血が出そうな…。
石丸くんも凝視をして「こうかな…」と指をちょっと入れたので「うっ…」と声が出てしまった。
「わ、ごめ、痛かっ」
「…いや大丈夫それくらいなら…びっくりしちゃって…ごめん」
石丸くんは、しなってしまった俺のそれを「ごめん」と言いながら触れ、でも側に来るのでついつい恥ずかしくて顔を背けてしまう。
「…慧」
「…何?」
「えっと…大丈夫?」
股あたりには当たるので、それしか見れずに触ってあげると、石丸くんは空気の抜けたような声を出した。
「…恥ずかしいな、これ」
「…うん、」
指がじわじわと中に入る。
少し力が入ってしまったそれに「…やべえ、なんか、吸い付いてくる…」と、側で言ってくるその息は温かった。
「……やべえ、入れたいけど…入らない気がする…」
「…いや、入るもんではある…」
「う、後ろ向く?」
「後ろ…」
取り敢えず背を向けたが、石丸くんがふっと側に来た瞬間、はっとした。
それに気付かない石丸くんのそれがそこに入った瞬間「はっ……っ、」と声が出て、完全にあの風景が浮かんできた。
ぐっと硬直したせいだろう、石丸くんは「……っこし、力抜ける?」と言ってきたがまず、「待って……!」とパニックになりそう。
ぐっと入ってきたそれに「ぅああっ、」と声が出た。
石丸くんは慌てて…「どうした…、」と心配そうに言いつつも動く。「……待って、」とまだ、余裕がないのに。
頭を撫でようとしてくれた、それは理解したのにぱっと手を振り払ってしまった。
意思に、反する。多分。
「…慧、」
「………ちょっと黙って、」
多分、状況は把握しただろう。
抜いて、少しそっぽを向いた石丸くんは「まぁ、全然良いけどさ」と吐き捨てるように言う。
それも、言ってしまったという雰囲気で気まずそうに布団を掛けてくれるけど。
ふう、と息をした石丸くんは「いや、まぁ、」と取り繕った。
「ごめん、がっついた。まぁ、ゆっくり…大丈夫?」
はぁ、はぁ、と少し息をする。
ぼんやりしたようにゆったりと待つ石丸くんは「…ごめん」と、声を震わせた。
今、はっとした。
多分、これ、きっと…。
「…間違えた?」
「…え?」
「俺今なんか、多分…間違えたよね」
多分今、石丸くんの柔らかいところ…琴線か何かに触れてしまった、そんな気がした。
石丸くんはやはり伏せ目で、「本当にごめん」と言った。
やっぱり、そうだ。何かに多分、触れたんだ。
「いま……俺がちょっと飛び掛けちゃってて、しかも、ヤケクソこいたね、ごめん。そもそもだって、俺、男だし」
「…ヤケクソ?」
「なんか、急に寂しくなって…」
…そっか。
「ごめんそうじゃ」
「いま多分、我が儘になった、押し付けようとしたな、俺」
「…そうかな」
「そうだよ!」
石丸くんは急に大きな声を出し、やるせなさそうにぐっと…夢の景色のように、ただ抱き締め、濡れた声で「わかってよ、」と耳元で言う。
「…え?」
「だって今…嫌だっただろ?」
「…いや、そうじゃない。石丸くんがとか」
「じゃぁ尚更言わないで」
「何…が、」
「慧はわかってないかもしんないけど、それだって絶対…辛くて悲しかったんだと思うから、だから俺はって、今……」
……は?
「…なんでそれ言うの」
いや。
石丸くんは、はっとしたようにがばっと起き俺を見た……その目は確かに、悲しそうで。
そっか。と冷えてきた自分がいることに…どこかで震えそうなほど…。
一気に怖くなってきた。
「…は?」
「今わかった。ごめん、結構傷付けてたでしょ、俺」
「いや、」
「いやもういいや、ごめん。やめた方がよかった」
「え?」
あぁ……なんか。
居たたまれなくなり、ちゃんとズボンを穿いてネクタイもシャツも直した。
…やっちゃったな。
あぁ、あぁ…そうだ。いま、完璧に言わなくてよかったことだったけれど。ごめん、どうやら溢れちゃったみたい。
「慧?」と呼ぶ石丸くんの声は呆然とした…空気の抜けた声だった。
顔も見れず、「あのね、」と、でもひとつだけ伝えなければと思った。
「…ばあちゃんに言ったんだ。聴かせるよって」
「…うん、」
「ありがとね」
ギターを持ち、部屋から去ろうとした瞬間「待って、」と、我に返ったように石丸くんはぐっと後ろから抱き締めてきたけど。
払ってしまった。
甦る、まるで格闘技だ、足がすくんでしゃがみこんでしまった。
………ダメかぁ、俺。
なんでだよ、俺。この、くそったれ…!
慧?慧?と心配そうで優しい声にもう、「うるさい…」と耳を塞いでしまった。
溢れる、ダメだ、ぼやけて仕方ない。けど、声も出ずにぐっと歯を噛んだら、頭痛がした、骨が圧迫されるのを感じる。
あぁここ、前頭葉だ。
立ち尽くした石丸くんに、「ごめん、ホントに、」とだけ言い残し、駆け足で出て行く。
……どうして、聞いてあげなかったんだろう。どうしていま、逃げているんだろう。どうして彼は……それに気付いちゃったんだろう。
彼は、優しかったのに。
いや、優しかったからだ。ごめんなさい神様?そんなの、そんなもの……。
君はちゃんと、手を伸ばしただけだったんだよ。
走ったまま部屋に籠った俺に、「さとちゃん!?」と、ばあちゃんの声がする。
部屋の隅で足を抱え震えに耐えようとしていたのだけど、ドアを開けたばあちゃんはなんとも言えない表情をしていた。
でも、部屋の電気を普通に点け「さとちゃん」と、笑顔を作ってふと言った。
「まぁた、庭にハルジオンが咲いたで。良い頃だぁ、後でほとばして食おうず。じいちゃんに、線香あげただぁ。さとちゃんが喜んどるって」
あぁ、そうか。
「…ばあちゃ、」
「なんだ?」
「歌っ…いいがな?……遅い、けど、」
鼻水が出る。それどころじゃないかも、だけど。
「ええで。ほうら、涙拭いて、夕飯食うだ」
「…はぁい」
居間に降り、ギターを縁側に置いて、まずは夕飯を食べた。
失いたくない、ただ、そう。ふらっとどこかへ、流れるように去って行く。
ギターをぎゅっと握った。
静かな星空、縁側から見えた風にそよぐハルジオン、もう四月は過ぎたのか、早いなぁ。
明日はどうかわからないけど、嘆いたところで同じ日はもう、来ないみたいだよ。
届かなかった17歳は、もうそろそろ、あと少しで、終わってしまうようだった。
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