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ステージ終わり「マジで帰ろうぜ慧」と言った半井に「嫌だ」と、慧は突っぱねる。
「…俺歓迎されてないしぃ〜」
「俺がいれば良いでしょ。みんな帰っていいよ」
断固として動く気がない慧だが、まず誠一から「今日の夕飯どうする?」と、ライブだっつってんのにメールが入ったので無視を決め込んだ。多分、黒田がメールでもしたのだ。
しかし、マトリさんと暮らしていてヤクザさんと繋がりがあるということは、仲間であれ箝口令が敷かれている。
状況的には確かに、ヤバイかもしれないという見解もメンバーで一致した。つまりそこまで来たのだ。
さて、これをどこまでシルバが考えているのかというのが重要だ。実は、慧には選択肢がない。
本当はこの場合、江崎か誠一に言うべきかもしれないがわかっている、確証も何もないから今こうなのだし…ぶっちゃけ自分は二人にとっては使用済みコンドームのようなもの、終わったらゴミ箱なのだ。
「慧、一度マトリさんに言っても」
「まぁわからないけど無駄なんじゃないの」
「ヤケになんなよ、マジで」
「黒田」
「何」
「……出来れば黒田の言うことは聞きたいと思ってるよ、でもね、意地もある。みんなさ、俺一応男だから」
慧がそう言うと皆黙ってしまうが、あれの当事者ではなかった、第三者の真鍋が「関係ないよそんなこと」と言ってくれた。
…本当はそう言ってくれる君の気持ち、仲間としてとても熱くて…有り難いよ。でも…。
「…じゃあなんかわかったって言うの」
「いや、」
「黙っててくれないかな。わかってる。俺が碌でもないのは。でも固定観念だって良くない」
「……じゃあ何かあったら絶対に警察や…マトリさん」
「知ってる、連絡先」
「…え?」
「当たり前じゃん当事者だもん。お前らが何話したかも聞いた。簡単な話じゃないの全部俺の種なの。お前ら干渉しすぎ。もう入って来ないで」
「あっそう、何かあったらじゃあ言っとく、絶対に許さないから。わかった?」
「……うん」
黒田の言葉が胸に染みた。本当はそう。わかっている。わかっているけど許せない。
「キツく言ってごめんね。でももうダメみたい。ごめんね」
「謝んなよ、腹立つな」
黒田はそう言い残し、一人出て行ってしまった。
半井は半井で「…考えてやって」と弱々しい。
「…うんごめん」
「あぁ見えて」
「わかってるよ。だからダメなんだよ、自分でけじめ付けなきゃ」
「わかったよ、慧」
半井は十字架を握り「ちゃんと待ってるからな」と言った。
顔向けなんて、出来るわけがない。
そのままずるずると去る半井、こちらを見ながらも出て行く真鍋、閉まったドアに「…ふっ、」と泣きたくなった。
ごめん、いつもそう。
でも、今回はちゃんと言えた。
眉をしかめたままになれば、演奏を終えたポリシーがステージからハケてくる。
「あれ?一人?」
と、当のシルバが面白そうに言った。
「はい、すみません。みんなこの後用事があって」
「あそう?」
残りのポリシーも首を傾げる。
「キリストくんはいないの?残念、大丈夫?」
「はい、お祈りで。あの、」
「あいつ後輩に愛されてないね」
「まぁそっすね、こっちもウザかったし」
「死んでくれて清々っつーか」
あひゃひゃひゃひゃ、とメンバーが笑っている状況。やっぱり黒田も半井も真鍋も間違っていなかった。
シルバは「終わったしいつもんとこでどーぞ」と、二人にどこかの鍵を渡した。
「ま、死なない程度にね。あとまぁ主催のあいつら、今頑張ってっけどそれとなんかすれば?俺嫌いなんだ、あぁいう宗教音楽」
シルバが残り二人を牽制する。
そうまでしてか、貴様は。それでもというのは余程だ。
大体、宗教音楽と貴様が称した主催バンドは自社レーベルで、それはメジャー行きしたから出来ている。お前より大分ましだっつーの。
「大体さ、俺のが先輩なんだけどポリシーさん。
ま、こっちは別にだからいいんだお前らとなんて。ははっ、殴ったとこ痛い?連れて来てくれてどーも。
加賀谷慧だろ?はい、これ」
シルバは表情を変えにっかにかと、スマホであの写真、スクロールして学校時代の写真を見せてきた。
「君とヤッて死んだらしいね、あいつ」
「………」
「そんなエクスタシー、俺も味わってみたいわ」
シルバにぐいっと、無理矢理顔をあげられ「生意気そうな顔」と言ってくる。
「PTSDにも良いやつだよ。はは、」
「…そうなんですか?」
「やっぱりそうなんだ」
「よくわかりましたね」
「病んでるヤツは見ればわかるよ」
…的を絞ってもらって寧ろ助かったもんだ。
シルバはふっと耳元に寄り、「どーして仲間は帰したの?」と囁いてきた。
「やっぱりこういうのは嫌い?」
「いや、」
慧はシルバの首に抱きつき耳元で返した、「シルバさんと話したかったの」と。
シルバは離れて顔を歪め「嘘臭っ、」と言った。
「嘘吐けないタイプ?まぁ、度胸は買うよ」
がっと股関を掴まれヒヤッとた。
次にはポリシーの二人に振り向き「じゃあね、楽しんで」と先輩風。
若干涙目になったが「ホントだよ」と言っておく。まぁ嘘じゃない。情報はあって損がないから。
「お前みたいなヤツが一番嫌いだわ」
ポリシーは雰囲気で出て行く。
お前ら、この前もそうだったよ。
「教育し甲斐がある」細める目は、濁っていた。
「そんな気に入らなかった?仲間に悪口言ったのが」
「…ここじゃ嫌」
「は?」
「あの人思い出す。あの人嫌だって言ったのに後ろから入れてきた。怖かった」
「…なるほど、口は上手いなお前、萌えるじゃん」
がっと手を取られ荷物もそのままに、すぐに楽屋から出されてしまった。
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