完
とある日、家に届いた一冊の本と、手紙を眺めた奈木は「はは、おもろいなみ空」とそれを笑った。
「燃やす言うてここにあるっちゅーねん」
確かにそうだ。そこにはあてがあの作家に渡した文もあったが、奈木にはそちらの方が興味深かったらしい。
「なんや滲んで読めへんけど…」と紙を日に透かして見ていたりしていた。
…あの人、やっぱりおもろい人やったなぁ。
あてらは退楼の儀を行ってから江戸を発ち、しかし京に戻るとなると奈木の実家問題があった。
結果、お隣の大和に住み始めた。
奈木に琵琶湖へ連れて行かれたときは、よもや心中でもする気なのかと思えば「大きゅうなー」と伸びをし、長閑に言うのだから拍子抜けしたような…と。
あの日奈木がああ言ったので、正直腹が立ち、まぁ死んでやってもいいかと一緒にやってきたが、そんなこともなく、普通な毎日を過ごしている。
「情死なんてな、この二人磔んなったから瓦版に乗ったんやろね。
しかし……っはは!このおっさんやっぱ頭に花咲いとるよな、作家ってえらいよなぁ。
まぁ、太夫としては客に花見せんのは上出来やけど」
全く、よく言うものだ。
「燃やさんで取っとこ、こりゃおもろいわ。あの人俺より上よな?」
3と5とすれば「うわぁえらいなぁ…」と、自分も少ししか変わらないくせによく言ったものだ。
あては後半2ページあまりが破かれていることの方が気になった。
これの方が意味深だと奈木は思わないらしい。何が書いてあったのか、睦事だったのではないかとついつい勘繰ってしまうが。
奈木はこちらではどうやら緩く、「病弱な嫁がいまして」等と嘘を吐き、朝の漁師をやっている。
江戸からの文は日中に届くことが多い故、田崎殿には申し訳ないが、こうして燃やす前に奈木の目に触れることとなった。
…きっとこの様子では田崎殿はあの楼にこれを持って行ったに違いない。差出人は要になっていた。
何か思うところがあって要は送ってきたのだろう。ということは楼ではきっと今頃、田崎殿は話題になっている。
「せやけどさ、どうせ情死なら腹上死がやっぱええよなぁ」
奈木はあての側に寄り「大事ないか?」と首に手を当ててくる。
どうやら、額よりも首の方が良いのだと、奈木は昔家にあった西洋医学の本で学んだそうだ。
最近こちらの気候にも慣れてきた。
そういえば幼い頃に江戸へ下った際もこうして熱を出したよなと思い出してきた頃で、調子も戻り始めていた。
「お、まぁ良さそうやね…葛湯が薄くて少し長引かせたなぁ」
楼から出て初めて知ったが、一般的には薬やら、葛湯なんかは特に高いらしい。
奈木のお手製葛湯はまるで通和散のような見映えだった。
外に出た道中の宿では多少あったが、この家に住み始めてからは、あてがこの調子なので交わりはない。
けれど奈木はあまり気にしていない様子で、本当に言葉通り、ゆったりと過ごしたかったのだなと知った。
しかし田崎殿の書を読みながら「湯船な、今日は」だの、久しぶりに…どうやら奈木は燃えたようだった。
そんな目で言ってきて、いざ風呂から出ればそのぎらぎらはなく、ただ笑っていたのだから、二人で開いて読むことになった。あまりにおもろかったらしい。
「まぁでもわからんくもないな、男はいつでも夢見とるからなぁ」
並んでうつ伏せになり書を開いていたのだが、奈木はあての首に当てていた手で頭の後ろを緩く掴み引き寄せてきたので、応じて口付けをする。
離した書はパタリと閉じ、奈木が流れるように上に乗ってきたが、まだ唇を離さなかった。
長い口付けは気持ちいいし、寝そうかな…となったのがわかったらしい、奈木は「寝るな!」とパンと手を叩き、ビクッと目が覚めた。
「今からやろが!」
とは言いつつ「あ、驚かせたな」と着物越しに耳を当て鼓動を確認し「あ、やっぱり早いけど…」と顔を眺めてくる。
はいはい、と頭をがっと引き寄せ癖っ毛をわしゃわしゃすると「んー久しゅうええ匂い…」とこそばゆくもゆったり溶けていくように奈木は言った。
「久しぶりやからなぁ、」と顔を上げつつ通和散を口に放りもにゅもにゅしてすぐ菊座にゆったりと指をやるのに「ゆっくりいまから解しとこ」と焦らす。
まず舐め回される前に奈木の口から通和散の残りを舐めとり、あてはあてで奈木の逸物にそれを塗りつけた。
「…いきなり直にくるやなんて…」
と互いにゆっくり脱がせ合いながら耳元で「み空もしたかったん?」と、わざと声も出さず空気で言う奈木に、身体がゾクッと鳥肌を立てる。
「俺実は」
耳朶あたりで「ゆっくりが好きやねんな」と奈木が言ってきた。
「仕込み長いから遅漏になってもうてなぁ、ま、み空の場合はいつも何回かになるのが不思議なんやけど…」
…全く恥ずかしいことを…。
乳首を吸いながら「あーこの肌触り、」とさっきから本当にこそばゆいので一回首元を叩いた。
「痛っ、」と言ってから、ピタッと動きが止まったので……あれ、腹上死? と少し心配になって肩を揺すればくいっと指が菊座に入り、またビクッとしてしまった。
はっと起き上がった奈木はすう、と息を吸い「アホか首は死ぬかて思うわ」と言いつつ、ぐっと雁首を入れてきてまた「はぁ……、」と苦しそうに息を吐く。
「ちとだけ力抜けるか?お前キツいねん久々やし特にぃ…逸物が取れてまう…」
本気で言うのに思わず吹き出してしまえば力が抜けた、そこからゆったり、じっとりと時間を忘れて交わった。
何をしたか、何度果てたかわからないほどで互いに息も苦しくどちらの温度かわからないまま、最期にどちらがどちらか、ぐちゃぐちゃなまま口付けをすれば鼓動も落ち着き、一気に眠くなった。
多分、ぼやけたような、夢心地な口調で奈木の「長生きしよな…」と首元に響く優しい声、窓から朝日がキラキラと照った、不思議な景色。
何かの見世物でもいい。
頭を抱える逞しい、大きな腕をすっと掴み、この腕に着いてきてよかったのかもしれない、暖かいなぁと、満ち足りた思いで目を、閉じた。
- 30 -
*前次#
ページ: