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 掛かっているバラエティに、平中くんが出演している。
 どうやら番宣で、しかし朝のやつよりは受け答えもちゃんとしているし、案外「クールキャラ」と…雰囲気的に確立していそうには見えた。

 まぁ、流石に4年だもんな。

「この子の担当になったよ」
「へぇ、」

 隣に寄り掛かると、自然と肩を抱いてくれる。

「この子実はアニメ好きなの。今日も帰りガチャガチャ行った。声優になりたいんだってさ、ホントは。あまり表に立ちたくないらしい」
「そうなんだ、いやぁでもなんか」
「向いてはいそうだよね…て言ってもまだ全体的に仮スケジュールのままウチの親会社から移籍してきた。前マネと喧嘩したんだって」
「不本意ながら仕事をぶち込まれてんのか…まぁ若いうちは良い気がするけどなぁ」
「いま見てそれ思った」
「ユキから聞いてるとさ、芸能人って気張りすぎよな。まぁ、安い感じで当人が捉えても、なんかなぁとは思うけど」
「そうだよねぇ。まぁ、プライド高すぎても使い捨てになりが」
「暫くしてないな、そういえば」

 全く前触れもない話題につい「へっ、」と芳明の顔を見る。
 少し和やかな表情で俺の頭を撫で「ほらほら休みなんだから、帰ってきたら」と、芳明はゆったりそう言った。

 …びっくりした。まさか芳明からそう来るとは…。久々にそう言われると未だに動揺するではないか…。

「明日休みになったんだっけ」
「え、うん」
「この子のせい?お陰?」
「まぁこの子関連スケジュールではある…野島さんは一定だけど、この子は売り出し中だから、少しの間はまた不規則かも」
「じゃあ風呂でも入れるか。久々に肩を揉んでやろう」

 あまりこういう機会もないからなぁ。

 それから平中くんのこともビーフシチューのことも頭の中の端に行ってしまった。

 当たり前でずっと普遍的、いつ以来とか全く考えないほど側にいるからちょっと、びっくりした。

 じっとりとキスをし、脱がせ合いながらベッドに雪崩れ込む。

 俺の左手を絡め取りながら彼は手首を唇で撫で、「随分綺麗になったよな」と少し食み、指輪を舐め、息を吐く。

 久々のセックスは、不思議だ。恥ずかしいやらなんやらであっという間だったような、長かったような…こんなことにドキドキしたのも久しぶりだった。

 言い出しっぺの芳明もそうだったらしい、「気持ちいい?」だの「大丈夫?」だの、確認するような、慣れないような調子で言うのに、出会った頃を思い出した。

 最初はとても不安だったし上手くも行かなかった…かも。

 出会った頃、俺は未成年だった。彼は俺が成人するまで本当に性交渉をしなかった。ぽいこと、に留まっていて。

 あの頃は早く大人になりたくて、大人を捨てたかった。

 指輪をもらった日。りゅう座流星群の時期だった。曇っていたけれど、出会った記念の日だと覚えている。

 初めてセックスしたのはその数日後で、俺の二十歳の誕生日だった。その日のことも、実はいっぱいいっぱいで朧気だったりする。

 そんなことを思い出す温もり。
 眠りそうな俺の耳元で「ユキ」と呼んで抱き締めてくれる腕。

 答えようと髪に触れようとすれば自分でも見える、今は大分薄くなった左腕の鋭いケロイド。

「芳明、好きだよ…」
「うん、」

 ぎゅっと抱き締められた腕の中で考える。好きだから抱いたり抱かれたりなのか、未だにわからない。
 ただ、今日は「ありがとう」と口走る。そう思えたからだ。

 昔の芳明は我慢していた。好きだから抱きたいけど、と。お堅い役職に就いているしと狭間で揺れ動いたらしいが、抱かれて初めてその一言を実感した。

 芳明はそういう、普通の人だ。
 だからたまに、このままでいいのかと先を、考えてしまう。

 両手で髪を退かしながら俺の顔を眺めキスをする芳明の胸に顔を押し当てる。
 何故かそれで寂しさがよりきてしまうくせに、身体は満足し気付けば眠っていたようだ。

 ある日、側で眠るのが母親じゃなくて驚いた。
 その男は、最初から変だった。その日俺の顔を撫で「可愛いね」とニヤリと笑って…。
 俺はあの男に、尊厳のようなものをぶち壊された。

 夕方、窓の向こうに見えた駐在さんは異変に気付いてしまったようだった。そう、気付いてしまうような、そんな人で。

 ビクッと、起きてしまった。多分、眠りかけていたのに。
 側には彼がいて「ピクッてしたけど」と頭を撫で、またキスをしてくれる。

「水でも取ってこようか」
「…待って」

 ぎゅっと抱きついて息を整える。あの日の彼は十年前で、俺はそのあと泣きながら「誕生日なんだ」なんて、下手に笑った気がする。
 この人はゆったり涙を拭い「おめでとう」と言ってくれた、それが16歳の日で。

 何度もキスをし深くなり絡めると、彼は流れで俺の上に乗る。

「大丈夫か、ユキ」

 俺はその背に抱きつき「もう一回抱いて」と口走っていた。

「でも、明日は芳明、早」

 首筋に唇を当てられはぁ、と声が出なくなりまた身体が痺れる。

 少し、ほんの少しだけはこの人といて感じられる、それは熱くて、母親とも違うし……あの男なんてもっての他。
 あの男は俺を部屋から追い出しわざわざ母親の喘ぎ声を聞かせるような悪趣味だったから。

 目を伏せると、芳明はゆったりと髪を撫で、ピアスを舐めながら、胸や下に触れてくる。

「ん……気持ちいい、」

 ビリっと中が焼けるように痺れ、二回目は早く終わってしまった。
 それで漸く深く眠りにつけた。眠って良いよと、まるでゆりかごのような優しさ。

 芳明はただ、俺を愛そうとしてくれているんだと思う。
 それはずっと多分、変わらない。本当は俺を抱くとき、躊躇っているような気がしている。

 思い出すのは早かった。翌朝腰の怠さに見送りは出来なかったが、いってらっしゃいのキスはした。

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