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「…てゆうか、ごめんなさいね今日は。僕が慣れてなくて…」
「いや俺の方がなんか、すまんなんですが」
「変な日本語」
「わかってるけどね、」
…あーなんか、緩んだんだか緩んでないんだか微妙な空気…。逆にどうしたら良いかわからないけど「…いつも、あんな感じ?」と聞いてみた。
「大体は。いや、いっちゃん悪いな今日は」
「いっちゃん…」
え、そんな日本語この子わかるの?ハーフだよな。
「え、何、何か変?」
「いや、えーと…いっちゃんって使うようで使わないような気がする日本語だなと思って」
「マジで?」
平中くんが後部座席でケータイを弄るのが見える。そして「マジだー!関西圏だって!」と言った。
…流石今時の子、反射神経良いなぁ。
「知らなかった…」
「俺も。マジか、そうなんだ。多分聞き慣れた日本語なんだけど」
「…多分、関西圏じゃないよね?平中くん」
「全然東京、生まれも育ちも」
「あ、そうなんだ。ちなみに本名?」
「うん、そー。エセハーフじみてる、ぶっちゃけ」
「な、」
エセハーフ…たまにいるけど純ハーフから聞くとちょっと面白いなとつい「ふっ、」と笑ってしまった。
てゆうか。
「お、面白いよね平中くん」
「え?そう?言われたことないよ?クッソ引きこもりだし」
「そうなの!?」
「うん。だからあんま喋んの苦手。理由は多分予想通りのやつ」
「あ、そうなんだね…」
ふとペットボトルの件が頭を過り「いや…」と、またうじうじした空気になりそうだが、調子も変えず「唐突にぶち込むけどさ」と平中くんが言う。
「あんた、男優だったって聞いたけどマジ?」
「ぶっ、」
本当に急に来てビックリした。何も飲んでいないのに詰まり、間違えて一瞬だけアクセルに入ってしまいヒヤッとする。
「あ、ごめん。いけっかなと思ってつい聞いちゃった」
「い、いや、いいんだけど誰がそんな」
「違うの?顔良いから納得し」
「あ、あぁそうねそっちね、うんうんいや違う違う。君の方がカッコ良いから」
「え?どっちなのその反応。だってパートナー男でしょ?あ、俺偏見ないよむしろこの前あん」
「なんで!誰から!」
「自分で言ってたじゃん、あれ?この前のってそういう意味だよね?」
「あ、それはそう、そういう意味で」
「あんた会話難しいな、うーんと、ゲイの人だよね?で、ビデオの」
「ビデオは違う、テレビも違う、あ、あの…」
困ったけれども、バレたのなら仕方ない。
「…宣伝の人です。君よりもなんというか違う意味でモデルです」
「………ちょっと待って迷宮入りした。え?雑誌?ゲイ雑誌?いたの?俳優落ちにしても見たことないなと思ってた。全然知らな」
「でしょうね。ん?でしょうね?」
徐々に徐々に記憶を辿った。
あ、そうだ、この子ゲイ疑惑だった、家で。確かに俺が言ったやつだ。
「…誰が?」
「えっと、ババアアイドルのマネが助監からって」
「みるるんのこと?25とかババアじゃないよ俺一つ上だし!」
「いやー、男の25とババアの25は」
「せめて女性にしなさい。全くダメでしょ、差別だよ!」
「いやでも違うじゃん」
「……まぁいいやこの論争はやめるとして。そっか茂木さん会ったことある気はしたけどぉ…」
まさか社外にまで知ってる人がいるとは…人の口にはなんちゃらだ。
「…じゃあ最初ですし?確かにそうだね、互いを知っとくのは道理だ…。
んーと、まぁ社内はみんな…最低でも3年くらいいる人なら知ってます。玩具PRで出てましたがそれはゲイビサイト…と、一部ノーマルAVにしか出てこないプロモーションでした。今はありません」
動揺しすぎて翻訳サイトみたいになっちゃったな。
「あ、だから俺観たことないんだ」
「でしょうね、未成年だもんね」
「ゲイビ基準20歳以上だもんな。ちなみになんて名前で」
「観られないだろうから言いますけど“ハル”です、カタカナ」
またケータイを弄り「いっぱい引っ掛かってわかんねーなおい」と言う。酔わないのかなそれ。
「えっとじゃぁ…ゲイビ、ハル………あ!」
「えっ!」
「あ、マジだ居た」
「なんで出てくんの!?」
「え、雰囲気ガッツリゲイビじゃん。これ構成考えたヤツすげえ…。セックスかと思いきや戯ばれてるって…こんなんマジか、エロいな使ってみたくなるかも」
「あーっ!やめてやめて!どこまで出てきてんの一体!」
「んー、電マとか、バイブとローターのやつと、あとアナルビ」
「わかったわかった言わないで!そんなにかよ!」
「…このほっせぇのとかふわっとしか使い方わかんねぇわ、あんた使い方わかるってことだよね?」
…開き直れ!過去だ!
「まぁ、大体はね!30秒広告で切られてるだけだけど君のように過密スケジュールこなしたんで1回で実質何プレイしたの状態ですよ、ええ。未成年を考慮し3日バイトのはずが3ヶ月在籍して旦那と険悪になりましたね、当時!」
「絵面想像したらシュールだな…」
ふっと黙って「てゆうか未成年で結婚したの!?」とまた横槍が入る。
なんか…内容はえげつないけど女子みたいな頭してるなこの子…あっちこっちに話題が飛ぶ。
あぁ、あの頃の芳明はこんな気持ちだったのかも…今更だけど。
「いや、結婚は二十歳だけどそもそも結婚と少し違うかな。何かあったときのために、俺実は身体弱いし。養子縁組になってる」
「え、そうなんだ、ん?」
「まぁまぁ人様の家庭だから」
「あ、確かに」
またぼんやりすると彼は「俺ん家の話聞く?」と聞いてくる。
なるほど、より迷宮入りした。
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