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「子供嫌いじゃないでしょ?
 てゆうか、思い付いた。ウチの番組出てみたら?」
「え、」
「もしよかったらだけど。
 あぁ、また仕事の話しちゃった、食べて食べて!」

 俯きながらパスタを食べる平中くんはふと、机の下を見て何かに気付いたような素振りで気を散らせたようだが、俺がきちんと「彼、本当はメディア露出したくないみたいで…」と野島さんに補足しておいた。

「あら、そうなの?」
「本業は声優やりたいんだよね?」
「まぁ……あんま、喋んの上手くなくて」
「あー」

 野島さんはあっさり「確かにね!」と言った。

「あまり目、合わせないよね〜。それ、公表してるの?」
「あっちでも全然。まだあまり方針も決まってなくて、そんでここ来ました」
「そっかぁ…、でも、その方針上手く行くかも、最初は」
「え?」
「ウチの番組、MCと、あとレギュラー3人で喋ってV見てるだけだし」

 食べ終え、「ご馳走さま」と手を合わせた野島さんと同時だったので、俺も「ご馳走さまです」と、空いた皿を回収する。

「あ、いいのに!」
「どうぞどうぞ、お二人で話してください」

 と、俺は食器を洗うことにした。
 水の音で単語単語を拾うが、「いい声だし、」とか「試しに」だとか聞こえる。

 実は結構これ、運命的というか良い機会になりそうかも。

 二人を眺めていると、勇気くんが慎重そうに平中くんの食器と自分の分を持ってきたので、水を止めて「ありがとう、よしよし」と、受け取ったが。

「で、どうかな?ハルちゃん」

 野島さんに話を振られ「はい?」と聞き返す。
 平中くんも振り向き、少し照れたというか嬉しそうというか…柔らかい表情。

「ウチの番組のナレーション。
 専属の声優さんがいるから、一回くらいはまずって、他のおっさん二人にも話してみようかなって」

 おっさん…元スポーツ選手と財閥の息子タレントだろう…許してくれそうではあるな。

「なるほど…。どうかなぁ、あとはスタッフと、声優さんの事務所に掛け合ってみないと返答は出来ないけれど…」
「私からも言ってみようかな。この子ドラマやってるし、最初の舞台でパッと上げてみても良いかなぁと」
「いや、でもまぁ…もし声優業なら」
「うんうん。芸名変えたいらしいよ。はは、『平中レイ』とかありじゃない!?
 まぁ、最初は兼業とかさ。若いんだし」
「なるほど…業界長いだけありますね、野島さん…」
「何言ってんの、私なんて大してテレビにいないわよ、兼業だもの。実質取り沙汰されたのなんて兄が勝手にテレビで喋ったからよ。で、最初はコンサートの宣伝程度だったし」

 確かにこの人はそうだ。所謂二世で、メディア露出は近年だけど、入社3年の俺よりも業界に長くいるのは確かだ。

「宮殿はその点、あの食事の場シーンあるでしょ?最後のスタッフロールでしか映らないんだけど。あれ、プロダクションの人もスカウトに来てるからなのよね。
 拾って貰う場と考えて…よく考えたわねハルちゃん」
「いや、スターライトの残ってたスケジュールでした。手始めにとそれを確定決定しただけで…」

 平中くんはふと手元を見た。手元には、いつの間にか青がいて。

「アピールの場よ、平中くん。どうせなら言っちゃえば良いじゃない」
「…いいんすかね?スターライトは俺をマルチタレントにしたいみたいでしたが」
「確かに、ウチも預かってる段階だし…」
「あーもう、全く。やっちゃえばこっちのもんだから!決めた、一回本当にうちのナレーションやらせる」
「…え、」
「私からも言うから。番組スタッフとか眞田さんとか!その他の調整はハルちゃん、よろしくね」
「……マジかー…」

 確かに野島さんは本当に(仮)くらいでタレントをやっている、つまりテレビ業界からすれば「出て頂いている」に近いポジションではある…まさかこう来るとは。
 フットワークの軽さに脱帽だ。

 野島さんが何かを注文しても「じゃあ野島さんはいらないや」という番組もないのだ。
 それは“二世だから”というだけではない、数字を取れているからだ。
 本人が言う「最近だし」でも、レギュラーを持てているのがその結果だ。

 …事務所の方針が女性寄りだから例え仕事を育児やらで断っても大丈夫、ここは良い点ではあるが…。
 数少ない男手の俳優が来た、ということはこっちに仕事が増えるのも考えられる…。

 考えていると野島さんは、少し勢いを落とし「まぁ…」と、優しい顔をした。

「道筋ってだけね。話し合うのは私じゃないわね、ごめんねしゃしゃり出て」

 …タレントからそう言われてしまうと少し、惨めな気がしてしまう。こちらの仕事はエンターテイメントへのお手伝いだ。

「いえ、すみません。僕ももう少し見つめます。野島さんのお陰で考えが広がりました。
 平中くん、まずは今日やってみて、考えようね。
 でも、気負わないで。よかったじゃん、例えば宮殿で微妙でも、取り敢えず野島さんも考えてくれてるよ」
「……なんか、」

 青と目を合わせながら彼はポツリと「夢って難しいっすね」と呟くように言った。

「なーに今から暗い顔してんの!叶っちゃったって気付いたらそれはそれでまたあるんだから。
 私はだからずっと追いかけてるのよ、その方が楽しいし。勘違いしないで、私の番組は逃げる方の道じゃないから。
 よく私の劇団員にも言うしね、楽しくないなら向いてないからやめろって」
「…野島さん良いこと言う…」

 きっとまだ彼はそこまで見えていないけれど、野島さんが言ったこの言葉を、もしも困ったときに思い出してくれたらな、なんて染々思ったりした。

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