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「浮気より質悪いんだけど」
「……ごめんなさい」
「ん〜まぁ俺も甘かったし、なんか、あんとき腹立ったのは事実だけど俺も悪いか、とは思ったんだよ、俺、ユキのこと怒れないしなぁ。数年のツケが来た感じかな。
そんであれか、平中レイアは人質な訳?」
「…1/3くらいは」
「…で、何回現場あんの、つーか今日はじゃあ何?大丈夫なの?メンタル」
「いや、そのあと普通に別番組で成果出した…てのは観ないとわからないよね、来月観てあげてね…」
「…君ってそういうところあるからなぁ、まぁそこが好きなんだけどさ。
出来る限り送ってやろうか?職場に言えば大丈夫だよ、事件になりそうなら。なんせ伴侶だし」
「そのヤバイ現場はあと2.5話分…まぁ、毎週やってるのわかる通り、そんなに長くないからさ…でもまぁ、うん…」
「…何されてるわけ」
「性的なサービスの強よ」
ごふっ、と息で語彙を誤飲したらしく咳をし始めた芳明の背をさすり「…ごめん、ホントごめん、」と謝るしかない。
「…あんときマジ訴えて社会的に消しとけばよかったな…証拠は?」
「ない……こればかりは俺が完璧に悪いのでちょっとなんとも」
「嫌だから言った、で合ってる?」
「………うん」
「まぁ、若気のなんたらは、あのときは俺も攻められないからドロー、お互い。だから謝るのなし。腹立つし罪悪感もあるから。こっからは大人の話で」
「…うん、わかった…」
「会社の人は?」
「バイトの件はうっすらと知ってるけど、ウェブ広告の画像の人とか、知らないから…」
「…まず、言える?例えばそこだけ変えるとか」
「平中くん、察し良いからというか…まぁ…見せられたらしい。
だからそれをやると、色々変に気を遣わせて彼のパフォーマンスに影響がありそうで、嫌だかな」
「んーわかった。マジでじゃぁ送迎する、時間は?」
「明日朝の番宣に出るんだけど、それから撮影って流れで…少し寄れってさ…」
「朝の番宣、うーん9時には一応間に合うな?じゃあいいよ。出勤ついでってことにしようか。その次休み取ってあるし」
「わ、わかった」
芳明が横からぐっと抱き締めてきて「嫌だったら辞めていいからな、マジで」と言ってきた。
「…やりがいはあるんだけど」
「それが一番怖いんだよ君はね。まぁ、やりがいは確かにいいことなんだけど、のめり込むとたまに、糸切れるだろ?あったよね、1年で辞めた最初の就職先でのパワハラ。身体弱いのにサビ残サビ残って無理に押し付けられてすっ倒れたって」
「うん」
「気付いてあげてよ、自分でも、自分に。少しずつは」
「…ハイ、スミマセン」
「いや、いーのよ謝らなくて。ただ心配で仕方ないよ…」
ぐっと俺を見た芳明は「一緒に墓入る仲なんだからね!」と言った。
「…んう。でもまぁ平中くんは多分短期だから……」
「…まぁ、よしよし」
でも、本当にそうなんだろうか。
抱き締められながらまた深めにキスをされ、まるで離さないと言わんばかりだ。
俺はそんなにだったけれども芳明が勃ったのもわかった。だからこそ手を入れると「いいのに、」と耳元に息が掛かる。
「違うよ、考えてくれたんだなって、思ったから…」
あの時も最後はそうだったじゃない。
バイトの時、芳明は女も嗜んでいた。それに俺がヤケを起こしたのだ。
何も考えてあげられず、ただ俺は猿のような本能で芳明とセックスしたかった、知りたかったのだ。
後に芳明は「君が自己処理をしているのもわかってて…」と語っていた。大人の理性が邪魔で仕方なく、悩んでいたのだと。
好きだから触れたい。
けど、好きでなくとも触れることが出来る疑問という芳明の気持ちは理解出来たから、ドローなのだ。俺は未成年で、彼は法の番人と養父を兼ね備えていたから。
「ね」
芳明を抱き締めながらふと、泣きそうになったが言うことにした「ホントに、いいの」と。
芳明はただ背をさすってくれながら「いいよ」と言い、さっとティッシュでそれを拭き取った。
「覚悟なきゃ、やってないから」
「いや……」
その縛りがいいのかどうか聞きたいの。
芳明だってまだまだ、本当はずっと未来があるのに、俺みたいなバカで、しかも同姓の…子供で。それだけで未来が狭くなってしまったんじゃないかって。
でも、惰性だ。そこまで言いたくない自分がいる。ねぇ、俺なんてさ。本当にどうでもいい人間なんだよ?
錨であんたを水の底に静めようとしている気がしてしまうんだ。
「じゃあひとつだけさ」
芳明は「薬飲みな」と、結構どっぷり、毎度夢すら見ないほどに眠れるやつを俺に渡しながらふと言った。
芳明は、そう。不眠症や双極性障害を知らないから。
「次、クソガキくんにされたこと、俺にもして」
ぐっと薬を飲んだ瞬間に言われ、思わず「はっ、」と言ってしまった。
「今日にとは言わないよ」
「…いいんだけどさ」
「明後日休みだし」
「いや、あの……。
俺ドライあるから、中折れして失敗したこと、あるじゃん…」
そう言うと芳明は「あそう?」と平然に言いながら、薬のなくなった口の中を犯してくる。
「そんときはそんときで楽しみ方、あるじゃん?」
「〜……!あれめっちゃくちゃ恥ずかしいんだからっ!」
「はいはい」
穏やかな表情だが、あれ、やっぱりちょっと怒ってる?そりゃそうなんだろうけど…と目を泳がせてしまったが、それでも芳明は目を瞑るまで俺の手を繋ぎ、やんわりと髪を撫でてくれていた。
気まずくて目を閉じると、「良い夢見てね、お休み」と触れるキスをしてくれた。
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