3


 ドアから離れヒソヒソ声で「寝てなかったんか?」と話し掛ける。
 この部屋には入ってはならないと言ってある。なんせ危ない。防音だからいいと思っていたが…。

「父さんが唄ってるのわかったから…抜け出してきた」

 ……可愛い〜〜!

「いつも唄ってるだろ?」
「父さん疲れてないの?でもなんか楽しそうだった」
「うん、まぁね」
「聴いてちゃダメ?」
「…どうした?なんかあったか?」

 俯いてモジモジしている。
 まぁ、いっか、あとはちょっと告知して…。

「よーし、少しだけ仕事してくるから、そしたら…。
 男の約束、ママと一花には内緒な。1回だけだぞ?入れてやるよ」
「…え!?」
「あっ、ちょっ、静かに」
「あ、ごめんなさい…」
「…ちょっとだけ待ってて」

 部屋に戻り、「いやー、幽霊は居ませんでした」としれっと返す。

「きょーは、そんなわけで疲れたので、まぁそんなもんで。良い週末を!
 バイバ〜イ」

 配信を確実に切り、三度確認し、よし、とドアを開け「ユキ」と呼ぶと、薄い眼、キラキラした顔をする。

 まぁ、きっと機械とか、そういうの好きだよなー。
 あ。

「ユキ、椅子持ってこよ」

 共にリビングから椅子を持ち出し、幸村を作業部屋に入れ鼻先に指をやる。

「内緒だからな?」

 幸村は嬉しそうな顔で、ヘドバンみたいに頭を振った。
 小さいうちにそんなことをしたらなんか脳が揺れてバカになりそう、の前に普通に危なっかしいので頭をパシッと抑え「はい、頭振らなーい」と注意する。

「子守唄か〜」

 余計眠れなくなりそうだけど、俺なら。タバコはさっと退かし、指輪も付けた。

 あぁ、仲間の斬新な歌、あったな。

「ねんねんこーろり おやすみなーさい
 羊がさんてんいちよんいちごーきゅーにー
くるくるくるくる世界はまわるよ僕らを置いてー夜の蠢き囀る声に、めーめーめーめー君と僕の、不思議な体験
 大人になったらわかるかい?いや大人になってもわからないこと
 沢山あったよセンセー パパママ」

 自分の歌では無いけれど。
 どうやら幸村にはわかるらしい、「父さんの唄じゃないよね?」と、小さなファンにそう言われた。大正解。

「父さんのかー」

 俺のバラードなんてなんだろうな、眠れそうなやつとか作ってないけど…。
 まぁ。

 あ、そうだ。

「イツリルビッ ファニ〜 ディシインサァ〜アイ」

 そうだ、これをやろうと思ってたんだった。

 じっと見る幸村はこの唄を知らないと思うし、俺の唄でもないとはわかるだろうけど、優しいメロディーに、瞼がどうやら重くなってきたらしい。

「How wonderful life is while you're in the world」

 父さんはこの唄好きなんだ、気に入ってくれるといいんだけどな。人生は、たった一つでサイコーで、ハッピーで、本当はとても素晴らしいんだよと。

 英詩だし、幸村はこくこくし始めた。
 ギターを椅子に置いて幸村を抱っこし、小さな椅子もリビングに戻す。
 今日はもう終わりだなと、寝室に行けば麻衣がパッとケータイを枕の下に隠して寝たフリをする。

 わかってる。けど、まぁいい。

 麻衣に背を向け、幸村を寝かしつけようと布団に入れば、幸村がニヤッと笑って俺の寝間着をキュッと掴み目を閉じる。

 なんだっていい。確かに幸せだから。

 いつか大きくなったら…いや、きっとその前に知ってしまうと思うけど、ちゃんと真実は伝えたい。その後、酒でも飲みに行ってくれたら、How wonderful life is…と、噛み締めたい。

 子供の温かさを感じながら、そう思った。

- 3 -

*前次#


ページ: