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部署に行くまでにある程度、話の筋は立てた。
ヤクザ案件ならこちらのみで動けなくはない。むしろ警察よりも幅はある。
だが今回は少し大掛かりだ。最悪、当てを付けもうひとりくらい同僚に先方へ潜って貰ってもいいが、それにしてもこちらの利益は折半だ。
さて、所長はなんと言うかな。
|下北沢《シモキタザワ》あたりも落ち着いただろうし、坂下が言う程弾かれはしなそうだが…。
「脚下」
あっさりと所長に弾かれてしまった。
そりゃそうか…相手がデカイし、だったらシモキタくらいの「自分らでなんとか出来る」程度の案件でなんとかするのが一番効率がいい…。
が。
「…いや、全国民単位でいかれたら」
「それこそサツの方がいいだろ、お前死にたいんか?ん?
大体同伴の坂下はどうし」
「そこですよね。既に警察署です今」
「はぁ!?」
…ですよねー。
まぁ、サイバー課なんですけどねー…。
パンパン腹の所長が腕組みをし睨んでくるので「…すません、パソコンぶっ壊れました」自分の!と正直に言えば「はぁ!?」が再び来る。
「お前また壊したんか、おい!これで何台目っつーか、お前それで大口じゃなかったらこっちが書類送検されるわ!」
「あ、それはですね〜、ぶっ壊さない単位でもまぁまぁ意味がわかるんで」
「じゃ壊すなぁ!」
「まずはコチラを」
取り敢えずスマホから、紀子のSNS、“案件”のストーリーを見せた。
「…これはすでにお上が注意喚起してるやつだろ!注意喚起程度だし全然ウチに関係ない詐欺案件」
「いやー、サンプルは少ないしその鑑識待ちなんですが、前回の“ユリシス”と手口が同じっぽくて」
「……警察庁が持ってった、あれか?」
「はい」
所長が「どれ」と自分のパソコンで紀子のSNSを調べ始めたので「あとこれです」と、透花のアカウントも送ってみる。
「この“天使ちゃん”はなんだ」
「紀子の息子です。
アーカイブは現在ありませんが、どうも、リアルタイムでライブ中継を行っているアカウントのようで…」
「…だから?」
「いや、これで少しはキナ臭さを感じて頂けるかなと。このサイトの作りは素人ではないです」
ふむ…と所長が少し腰を据えたあたりでふと、同僚平良誠一のデスクに寄る。
平良は俗にも、ヤクザを飼っている。話しが早く進みそうだ。
「平良さん」
眉間を揉んでいた平良がパッと、嫌そうに安慈を見「なんですか」と不機嫌全開だが、スン、とクールスタイルになった。
冷徹な男だ、こいつは何年か前に大きな“市場”を分解した経歴がある。
「平良さん、確か巽んとこのを飼ってましたよね」
「…うるさいなあんま言うなそれ」
「まぁまぁ、それは置いといてちょっとピンと来てくれそうかなって」
「…大して変わらんでしょうよ、ヤクなんて」
…流石身持ちが堅い。
「…インフルエンサーの謎の美容グッズと、エロサイトライブ中継の息子」
「…は?」
「その息子はフランスから突如養護施設に現れ、無期懲役男と特別養子縁組をした」
「……露骨に底辺な…なんというか昭和っぽさがあるけど」
「なんか知りません?」
「海江田さんって全方位に喧嘩売るタイプですよね、なんというか巻き込み型というか」
そう言いつつも腕を組み「まぁ宛がなくはないけれど…」と瞬きをする。
最近やけに職場にいるし、自宅に帰っていないのかもしれない。そろそろコンタクトが痛いのだろう。
「内々で済む話じゃねーかもなって。ちなみに」
「なんじゃこりゃ…」
所長がどうやら、共に添付した“天使ちゃん”の画像フォルダに行き着いたらしい。
平良の肩をさりげなくポンポンとすれば「なんだよ…」と、疲れたような溜め息で所長の元まで着いて来る。
「あ、動画の一部分が遡れたんで、パシャリとやったやつです。それ自体はクリーンアップ済みで」
「これ合法!?」
ふらっと眺めた平良も「うっわ……」と食い付いた。よし。
「合法かわからないんで現在坂下先輩がサイバー課に」
「は!?」
「んー、なるほどなんとなくどうして俺に聞いてきたかわかったわ。リンク漁ったんだよな?」
「はい、その通りです。
普通はこんなの、サーバー更新せずディープに流れるのがセオリーだろうけど、」
「合法じゃないけど合法、ていうのが現状でしょうね。海江田さんみたいに。
えーと所長、元サイトリンクの横にある鍵マークを」
「あ、更新は1年ものです。そろそろ切れますが」
「…1年か…微妙な線だな。
国内サーバーなら素人でも経営は出来るが、まあ確かに。財力面で俺に聞いてきたんですか?」
「んーまぁ……」
平良はボソッと小声で「マジで喧嘩売ってる?」と言ってくる。
こういう直情タイプは火を点ければ仕事が早い。しかし体裁上「平良さん、お疲れですよ、それ」と煽っておいた。
「…これ、何年何月何日のリンクなの」
「一応今年の3月15日から16日0時までに残っている画面です」
「株主総会直前か…ん?今年?」
「はい」
ふと間を持ち考え「…アンタが逃したやつ、今年の夏口だったか?」と聞いてきた。
「はい」
「なるほど。
所長。この人警察導入しちゃったみたいなんで、どのみち開示請求取れるくらいには許可下ろした方がいいし、多分当たりますよ。ウチの方が近い案件かもしれません」
「…海江田、お前今坂下とやってるんだよな」
「はい。先輩には今、俺の私用パソコンの修理をお願いしてもらってます。直るかなぁ、そっちの方がヤバイです。
…平良さんが言う通り、裁判所は先にウチが抑えたいです。この件、もしかするとまた消えます」
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