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山ノ井健三46歳、父親からの生前分与の不動産投資で年収5000万の独身…。正しく成金だ。
最近不動産はバブルを迎えている。その割には個人として…散財癖は確かにありそう…。
これは所詮、まだ個人間でしか調べられていない。平良にキャリアのIPを抜いてもらってなんとなく出てきた情報だ。
日頃のクリーンアップのおかげか、USBはわりとすぐに返ってはきたのだが、坂下がサイバー課から持ち帰ったUSBには少しだけ欠損があった。
裁判記録をダウンロードしたデータだ。
帰ってきた坂下は取り敢えず所長に、知っている限りの情報を話すことしか出来なかったようだ。
しかし、だとしたら私用パソコンで調べた履歴の決定打は、はたから見れば訳が分からないだろう。それをどう持っていくか、持っていく場所によってはただのこじつけにしか映らない。
安慈が潜ったのはダークウェブ上ですら消えそうなほど過去のデータだ。青木透花…という名前ではなく、金髪碧眼の子供のキワモノ映像、それとやはり、臓器売買の記録だ。
向こうにいた頃、恐らく青木透花は孤児院にいた、そこが潰れ日本の養護施設に送られている。
“青木透花”としての入院履歴等が調べられれば幸いだが、警察はこの件に関し協力体制ではないと、裁判記録が消された事実でわかった。
…ハイパーパソコン、開発されねーかな…。
身バレ覚悟の“個人”としてなら出来るだろうが、自分の経歴が流出すれば自然と今やっていることが犯人の大元にバレるわけで…。
なんだかなぁ、と、家の前でタバコを吸う。
…だから前回の団地崩壊は手遅れになったんだ、その前例があるのに国は精々その程度しか動けない。
警察なんて最早民間じゃないか。そうとすら思えてしまう。
ひとつ確実に叩けそうなのはあの成金かな…脱税でもしていていれば幸いだが…。
ぼんやりと、狭い夜空を見上げる。
ラムの匂い。こういった瞬間はどうしてもこの、真っ直ぐ伸びる紫煙に不自由さを感じてしまう。
はぁ、と溜め息で紫煙は離散する。
空はまだ、夜を乗り越えていない。星も見えない世界は蒼く、黒く塗りつぶされたままで。
…あの子はずっぽりと、沼の底に沈んでしまっている。しかも、泥沼に。
全てが大人のせい。それがやるせなくて仕方がない。どうして、折角安全な国に来たはずなのに。
母親だって、父親だって。養子に迎え入れてすぐの写真は幸せそうに見えた。そんな粗い“虚像”が、どこかへ通り過ぎていくのを待つだけだったなんて。
一体何を、何も信じられな──
階段口に青木透花が現れたのが、たまたま見えた。
…21:36。夜勤にしては随分早い。
…ジイさんは一応、寝た頃なのかな。
ライブ配信自体は確か坂下もすぐに帰ってきた頃…定時の少し後くらいに終了した。やはりアーカイブは残さないスタンスらしい。
ふと、社用ケータイのバイブがなる。平良からだった。
「…はい」
『あーどうも。
入り組んでいてわかりにくかったが、山ノ井はどうやら“花咲組”の残党かなんかが懐柔しているかもしれない』
…あんたがやったやつだったんかい。
「…なるほど大手っすね…」
『残党組の次期組長候補のひとりがやり手らしい…先輩の管轄だったな…。一応、花咲の敵が的を絞ってくれそうだ。少し待てるか?』
「…待つしか、ないでしょ」
『俺の個飼いは一応仕事が早い、裁判所よりもな。どちらかと言えばクリーンな方だから』
…ヤクザでクリーンなんていねぇよ…。
「…すませんね、なんか」
『…この会話、撮ってんなら消しといてくれ』
「はい」
『知り合いはいるそうだ。俺にも宛がある、六本木は』
「感謝します」
なるほど、残党じゃ金の稼ぎ方も杜撰か、親も新しく立てるわけだし。資金繰りもキツくなったんだろうな。
そりゃぁ読めない訳だし、だからこそ先回りすれば大したものか。
通話を切ろうとしたが『25万な』と言われつい「は!?」と声をあげてしまった。
『当たり前だろお前ぇ…、まぁ、本件でその花咲の残党が潰れれば友人価格で安くしてくれるらしい、という見込みの頭金だ』
「いやっ、俺今団地住み!格安のっ!」
『じゃあ大丈夫そう』
「いやいやいやいや待ってください今回パソコン修理すら吹っ掛けられ」
『大丈夫そうじゃないか、手取り35万だろ?』
「んーで知ってっかなっ…」
『成功したら昇給だろうし』
「んな不動産投資みてーな感覚で」
『博打っつったろ。ごちゃごちゃ言うなら正規価格の50万でどーだ?こっちも見込みあって安くして貰ってんだよ』
「……相変わらずいい性格っすね、」
『腎臓よか安いだろ。
山ノ井なんて腎臓ふたつより高いし。差し押さえまで持っていけば大当たりだぞ、海江田さん』
「確かにそうですが、いやそれウチよか国税庁の」
『50万?それとも坂下とお前の腎臓ふたつずつ?』
「…あぁ、も〜…」
『吹っ掛けてきたくせに情けねえな腹括れよだから出世しないんだよ。
いーか?タダより高いもんはないんだぞ?』
「…はいはいはいはい、わかりましたよ、ありがとうございますね!」
今度こそ通話を切った。
まぁ、確かに…。
ライブ配信が頭から離れない。後半は最早事故動画に近かった。なりふり構っててはしょうもないか…。
痛いところを突いてくるもんだ。
自分の不甲斐なさを知ったばかりではないか。前回も…今ですらも。その点でも確かに…勉強代か。良い性格だよ、感謝だ感謝…。
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