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「……まあ、わかんねぇな…。
 ユキも学も超可愛くて良い子だから俺にはわかんねぇ。佐藤?だっけ。普通なら物で人殴らない…し、多分、バンドマン以外は……あ、俺昔バチぶん投げられたことあるんだけどさ、前のメンバーに」
「…へ!?」
「確かそん時ぶん投げ返したねぇ…若かったな…仲良かったけど夢中になるとあるもんだよたまに、はっはっは」

 こんなに温厚な父さんにも、そんなことがあったのか…。

「……幸村」

 「他の家庭のことはあまり言いたくないけど…」と父さんは続けた。

「俺やアカネちゃんとかもさ、周りに血の気の多いやつばっかなんだ…けど…。
 佐藤もやり過ぎなのは前提ね。自分の子供を信じて疑わないのは当たり前で、アカネちゃんも頭に血が登っててきっと…あの母ちゃんにとっちゃ、やり過ぎなんだろうけど、だからどちらが、とも言えなくなっちゃったのはある。
 まぁ、俺も悪いと思えなくて一切謝らなかったけど。それはある意味佐藤息子と同じなのかもしれない」
「………でも、」
「謝れって言ってるわけじゃない。何が正しいかと考えてから自分で決めることだよ。
 俺らは言うて、その場に居なかった。だから本当は学と幸村と佐藤息子で決着をつけるべきだと思う」

 父さんはまた穏やかに笑い「アカネちゃんに悪いことしたな…」と言った。

「全部言ってくれてスカッとさせてもらったけど…俺はね?大人としてはね?
 でもそれより……女って怖ぇ…由亜ちゃんすらすげぇ……押されちゃってさ、幸村に言いたいこと言わせてあげられなかった」
「………いや、オレも同じこと思って口挟めなかった……」
「学のお見舞いには…ふふふ、俺が全く使わなかったグレコのバイオリンベースをあげようかなと…でもんなさ、アカネちゃんが言った…ていうかこれ、ニルヴァーナのカートが言ったんだよ“死んだ木”って…!
 …そんな物より当たり前にお前らの命が大切で…そんな事気にしないくらい常識として染み付いてるから、アカネちゃんはギターギターって言ってて学も守ってくれたんだろうなって思うから、アカネちゃんを引用して聞いてみる、ギターは何がいい?」
「え、あぁ……でも、」
「いっそお下がりを持ち歩き用にするか…実はあれ、多分もう売ってないんだよね」
「…そもそも同じものでも、同じじゃなくなっちゃったから…」

 お下がりか。

「オレも父さんのお下がりがいいかも。
 確かにあれも綺麗で…ホットピンクフェイド…」
「ちゃんとギブソンのレスポール…しかもUSAだったからなー…でも俺が「なんか可愛い」って選んじゃったやつだったし…」
「…車?の理論で言うなら、おかげで丁寧にきっと…使えたのかもだし…」
「ホントにお古でいいん?」
「うん。なんか、学くんの…アカネさんのだった、て聞いて羨ましかった。アカネさんの思いがきっと、詰まってる…ていうか」
「いいよ。俺は辞めてないから…ムスタング以外で」
「……うん、ありがとう、父さん」
「学、ストラトだったのか…ショートの方が弾きやすそうだけどそれこそムスタング…ときてジャズマスなら…。
 確か由亜パパバンドのベース、ジャズマスだな、ムスタングともあんま変わらんしバイオリンベースはショートだし環境良いね。お前ら丁度、ベースいないしな」
「学くん確かに、床に置いてポロンポロンしてた」
「あはは!あるあるだよあるある!ユキはたまたまというか…!そんじゃなおさら難しいなストラトは…」

 喜んでくれるといいなーと嬉しそうな父さんが…かっこいい。
 自分の時は当たり前に父さんが抱えて弾いていたから、それをマネしただけだった。

「……父さん記念、ごめんなさい」
「ん?
 ああ、まぁ、たいていギターなんて変わるもんだし。使わなくなると押入れに行く。
 それなら次に繋ぐ方がいいなって俺も思ったから…眠っているバイオリンベースにしようかなって。
 ユキには新しく…いやお古なんだけど…俺はもっと繋がっていたいって思って、お古超嬉しいってか、へへっ」

 …父さんは、実父ではない…。
 そんなには覚えていないが、実父はギャンブルやらお酒やら…DVやら…母さんと俺にヒドイことをしていたらしい。

 …でも母さん、今日すら来てくれなかった。
 父さんが来てくれたのを見た瞬間、正直安心した。けれど「やっぱりか」と落胆もした。

 気付いているかはわからないけれど、普段母さんは昼…家にいたり居なかったりだと思う。多分、よくないことをしている。

「そうだ、一花は…」
「あー………連れて来れなかったけど事情は話してあるから、帰ったら「お兄ちゃーん!」攻撃に備えて…一応頭打ったし…」
「わかった…。
 ねぇ父さん、一花、いま家に一人なのかな……?」
「確かに。遊びには行かないよなーこの事情…俺も可愛い可愛い攻撃で応戦するわ…」
「オレは「夕飯ありがとう」攻撃する…」

 妹対策案、決定。

 家に着くと、さささっとリビングのドアが開き、エプロン姿の一花が「お兄ちゃーーん!!!」と、テレビの音の合間に「おかえりー」と言う母さんの声をかき消し「大丈夫なの!?」と突撃してきた。

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