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「……何が言いたいの」
「…別に」
「具合悪くないの?」
「悪い方がいいの?」
「何さっきから。嫌味?ごめんね行かなくて!」
「違うよ、」
「……なぁんか気分悪っ。
 朔夫さん。私少し具合悪いから先に寝るね」

 後ろに声を掛け「はいはい」と言う父さんの声も聞かずに母さんは寝室へ向かってしまった。
 しんとした空気に「後でおかゆ持ってくか」と、少し暗い物言い。

「オレが持ってくよ、父さん」
「いや、大丈夫。多分俺が嫌味言ったからだから、仲直りするよ」
「………うん」
「気にすんな。大人はクソガキより面倒臭いんだ」

 一花と一緒におかゆと野菜炒めを運び、「ホントに…」と、父さんは少し遠い目をする。

「あ、母さんいないんじゃ動画観よ…あ、ミラーボールとかチカチカするか…」
「いや見れる、ほぼ大丈夫だから!」
「めったにないし!」
「ふはは、あぁ、まずはいただきます。
 何観るか、うーんマイケル・ジャクソン観るか」
「…予想外のところきた…」
「多分おもろいよ。多分一花ビビる。俺はそれを解説する」
「はははっ!それもいいかも!」
「言うてユキもあんま見たことないっしょ、この前ウィアーザワールド解説したくらいで」

 テレビを動画サイトに切り替え「ホント、一瞬別人だから」と楽しそうだ。

「一花にもわかるー?」
「それを解説するんじゃん。マジで凄いかんねライブパフォ。俺ホントに歌ってんのかなって少し思ってたけど、」

 動画が始まり「多分歌ってんだよマイケル、MVだと歌ってない…音を後から入れてんのに」と確かに少し噛み砕いて話している。

 マイケル・ジャクソンの舞台を見て「変な歩き方だよ床動いてるの!?」とか「ナナメー!」とか、一花は予想通りの反応で。

 オレもつい「…あれでも見たことある…ムーンウォークってやつ?」と、夢中になってしまった。

「ナナメのはあれ、靴に仕掛けがあるんだよ。クギでくいっと。
 ムーンウォークは練習したら出来るけどマジ、マジな、昔のMV見るとあれだよあれ…パルクールみてぇな。多分この人出来る。あ、パルクールって元はフランス兵の軍事訓練だったんだけど、今やスポーツになった」
「……あぁ!リアル鬼ごっこみたいなあれ?」
「え、何それわかんない鬼出てくんの?マジの?妖怪?」
「違う違う!なんか町中逃げ回る、あの…手すり登ったり」
「あ!それそれ!」
「一花も出来る?あれ」
「出来るんじゃね?一花身体柔らかいし。ちなみに俺はもう無理ジジイだから」
「よんじゅうななさーーい!」
「わーやめてロックンロールは歳取らないから」
「……名言」

 いまはこうして楽しいけれど…オレは父さん記念までは、父さんと母さんの子である一花と家族に…不安があった。

 いまはそんなことも……ない。

 だけど、たまに父さんは無理をして…気を使いすぎているのではないかと思ってしまう。これがウソのものだったらと…どこか怖いから。

 食べ終わり夢中になっていた頃、「お腹空いた」と母さんが現れ「あ、ごめん」と父さんは料理を温めていた。

「…楽しそうね」
「ごめんつい、マイケル・ジャクソン観て盛り上がっちゃったわ…」
「幸村も元気っぽい?」
「うん。
 そろそろ寝ないとな…一花ぁー、ユキぃー、風呂入って寝ないとねー」

 「はぁい」と返事をし、「先に入るね!」と言う一花に「わかった」と返す。
 バツが悪かったのか、しぶしぶ洗い物を始めた母さんに「あ、ありがとう」と言ってから、「それなら幸村借りていい?」と聞いている。

「別にいいけど…」
「ギターぶっ壊されたからさ。
 ユキー、選んでいいぞー、行こー」

 誘われ「はーい」と返事をする後ろで「は!?何それ!?」と、やはり母さんは事態を把握していないらしい。

 しかし「お下がりあげるんだよー」とルンルンな父さんに、なんか、まぁいいかと気にしないことにした。

 防音室を閉め切って、「これは…」と弾き語りしながらギターの特徴とかを解説してくれる父さんを見て、やっぱり音楽っていいなと、「父さんのムスタング、聞いてみたい」と、ついワガママを言ってしまうけど。

「はは、いーよ、特等席だな。ちょっとトムに向いてるギターじゃな」
「父さんの歌が聞きたい」
「え?
 …っはは、可愛いこと言うねぇ、かしこまりましたっ!」

 それからふっと鳴る…オレではまだまだ弾けない音律。
 凄い指疲れそう…速い…と思っていれば「あ」と弾きやめる。

「…ちょっと待って。
 んー。
 違ぇ音。んー、んんん、んんん」

 チューニング、自分の声…なんて。凄いのか凄くないのか。

 ここだな、と決め「泣きたーいよな………間違えーたぁー、泣き出ーしそな しんきろ〜にぃ」と弾きつつ修正しつつ歌いつつ。

「父さん最初ので合ってた!」
「マジかっ そんな気はして〜てーぇ」
「っはは!」

 それから一花が「お風呂とっくに終わっちゃったよ!」とドアを叩くまで楽しく過ごしてしまった。

 防音室を出る際、言っていたバイオリンベースの手入れをする父さんを見て、前向きに…本当はこれがトラウマで学くんが嫌になっていたらどうしようと思っていたけど…お見舞いに行って、それから考えようと思えた。

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