眩しい。

 財前光は眩しい。
 別に笑顔が輝いているとか、雲の上の存在のようだとか、そういうわけじゃない。けれど、確かに眩しいのだ。
 それは普段から感じている訳じゃなくて、例えば集会でグラウンドに集まった時とか、部活終わりの帰り道だとか、委員会の仕事で図書室で眠っている時だとか。
 ふとした瞬間、目を細めたくなってしまう。最近特にそうなる事が多かったように思う。ただ、原因がわからなかった。
 だって財前光なんて、眩しいとは掛け離れた存在なのに。

「なぁ財前、なんでやと思う?」

 だから、本人に直接聞いてみることにした。別に私と彼は全く話さない仲じゃない。どちらかと言えば、よく喋る方。同じ委員会だからかな。隣の席だからかな。それは、わかんないけど。
 ただひとつ言えるのは、確かに、私は他のクラスメイトよりも、この財前光という人物との距離が近い。

「……は?」

 ぐるぐると余計なことを考えていたら財前は少しだけ驚いたように目を張って、そして不審な目をこちらに向けてきた。
 その顔はまるで異物でも見ているみたい。失礼な。

「説明したやん! 聞いてなかったん? また説明しよか?」
「聞いてたわ。聞いた上で聞き返しとんねん」
「じゃあ答えてや!」
「いや無理やろ」

 そう言って財前は興味のなさそうに自分のスマホをいじり始める。いや、最初から興味がなかったけれど少し、少しだけ私の話に付き合ってくれただけなんだ。
 誰にも気付かれないように、目を細めた。

 本人が答えてくれなさそうなので、この謎は一生残ったままだろう。もやもやするが仕方がない。だって私には、財前が眩しく見える原因なんてわからないんだから。
 不貞腐れたようにわざとらしく頬を膨らまして、財前から顔を背けた。ついでに拗ねてますよアピールも兼ねて机に伏せる。まあどうせ? 財前は私の事なんかちっとも気にかけてませんし? こんなことしても気付かないだろうけど?
 もやもやする。これも財前が眩しいのが悪いんだ。

「……ピアス」

 不意に、隣から声が聞こえる。
 ちらりと顔を少しだけ上げて、目線をそちらにやる。財前はまだスマホを触っていて、私の方なんか見もしない。

「……なに?」

 一拍遅れた返事の声は、自分でも笑ってしまう。

「だから、眩しいって言ってんの、ピアスが反射してるんちゃうん」
「……なんで?」
「普通に考えて太陽の光とか電気とかやろ。アホなん?」
「アホちゃうもん!」
「あーはいはい」

 唱えた否定の言葉も軽く流されてしまう。ちょっぴり悲しい。
 しかし財前はこれ以上私と会話をする気がないのか、ついにポケットからイヤホンを取り出して耳に装着してしまう。こうなったらこいつは意地でも他人の話を耳に入れない気だ。
 それがわかっているから、私もこれ以上何かを言うのはやめた。

 ただ、財前の答えはなんだかピッタリとハマってくれなくて、私はやっぱりこれからももやもやし続けるのだろう、と何となく思った。


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