spinnengewebe9


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この日がくるのを何よりも恐れていた。
決して誰にも知られてはならない願い──、覚悟などする気がなかった。

まふゆが行方不明になった。死んだ可能性が高い。

任務を終えて拠点へと戻る中、巨人の群れに見つかったとのことだ。エレンとエレンを守護する者たちを逃がすために、まふゆは一人飛び出していった、と。
ああきっとあいつはやるだろう。何しろ、命に代えてもエレンのガキを護らなければならないとリヴァイが言ったから。
リヴァイならなんとか切り抜けられるかもしれないが、まふゆには荷が重い。
わかっているくせに。躊躇いもなく、後先考えず、行ったに違いない。まふゆのしたことで苦しみ、悲しむ者がいることをわかっちゃいない。リヴァイの最も嫌いな馬鹿だ。


「兵長!」

勢いよくドアが開くと同時にエレンが入ってきた。

「クソガキ、ノックもできねぇのか」

「それどころじゃないでしょう?!早くまふゆを探しに行かないと!」

「無駄だ。ハンジが掛け合ったが、エルヴィンは待機を命じただけだった。たった一人のために人員を割いて他の警備を疎かにできると思うのか。現にお前は狙われたんだろう」

「──そうですよ。俺がもっとしっかりしてればこんな…」

エレンはぎり…と歯を食いしばり、拳を握る。

「そう思うならさっさと力を制御できるようにしろ」

「わかってます。だけど今はそれよりまふゆのことです。兵長一人でも行ってください!責めなら俺が…!」

「俺が…?てめぇが拷問でも受けりゃ許されると思ってやがるのか?何様のつもりだ」

「なんでですか!兵長だって本当はまふゆを探しに行きたいくせに!兵長だろうが団長だろうが、誰かを特別に思うのはそんなにいけないことなんですか!」

「…だからガキは嫌いだ」

純粋に、想いは何よりも尊いと信じる。年齢は関係ないかもしれない。エレンと同じ年の頃、リヴァイにそんな感覚があったかどうか。

「ガキは関係ないでしょう。話すり替えないでくださいよ」

「……」

どんなに公平にしようとしたって無理がある。そんなのはわかっている。だが正論をぶつけられたとしても口に出すことはできない。個人の感情など兵団には無関係だ。

「話は終わりだ。さっさと出ていけ」

リヴァイはエレンを突き飛ばすように押し出して、ドアを閉めた。

「兵長!早く行ってください!」

閉め切られたドアをエレンが激しく叩く。蹴りを入れてやめさせようとした時、馴染みの声が聞こえた。

「……やめるんだ、エレン。リヴァイは行かないよ」

「ハンジさん…ハンジさんまで…」

「おい、エレンがバカなマネしねぇよう見張ってろ」

「行きたくても行けないんだ。個人的な都合で規則を破る兵士長なんて誰が従う?」

「黙れ。クソメガネ」

「嫌われても恨まれても、統率のためにはやらなきゃならない──兵士長として今までしてきたことが無意味になってしまう」

「それは…大切な人に代えてでも守らなきゃならないことですか?」

「私たちは心臓を捧げよと誓ったんだよ。生半可な決意じゃない。エレンもそうだろ?巨人を駆逐するんじゃないのかい?」

「…………」

「なーんてね。ほんというと私もちょっと期待したんだ。すべてを捨ててでもまふゆを迎えに行ってくれるんじゃないかって」

リヴァイが目の前にいないからと好き勝手言ってくれる。
すべてを捨てるなどありえない。見果てぬ夢──

「ハンジさん…」

「それにしてもさぁ、リヴァイ。君は隠してるつもりみたいだけどバレバレだねぇ…まふゆが大切な人だって」

反射的に足が出て、ドアが割れるような音を立てた。

「無駄話はよせ」

自分はいつからポーカーフェイスができなくなってしまったのだろう。
ガキと侮ったエレンにまで気づかれているなんて。

「ごめん、私が悪かったよ。今言う冗談じゃなかったね」

しばらくして廊下は静かになった。

それから一日、二日と過ぎ、一週間が経った頃には隊の空気も戻っていた。最後まで帰りを待っていた者たちもようやく現実を受け止め、諦めたようだった。

リヴァイは感情を殺して団員の前に立つ。

まふゆの肌のぬくもりが消えていく。抱き合った感触も香りも薄れていく。
決して誰にも知られてはならない願い──、失いたくない。覚悟などしたくない。
たった一人の存在がこんなにも胸を握り潰す。

公休のたびに、巨人の群れが現れたと報告のあった周辺を探して回った。何か、何でもいい、まふゆの痕跡はないか。マントや兵服の切れ端でも、立体機動装置の残骸でも。
そしてとうとう緑色のマントを見つけた。ぐちゃぐちゃに踏み潰され、雨風にさらされ、原型を思い浮かべるのが困難なほどだ。しかしかろうじて見て取れる背中のエンブレムは間違いなく兵団のものだ。泥に埋まった布を引っ張り出す。

「────」

食われたならマントだけを残すのは不自然だ。いたぶって殺したならその場に他の物も打ち捨てられているはずだ。考えたくないが遺体の一部があってもおかしくはない。
確認して回るが、それらしきものは何も見つからなかった。

リヴァイは確信した。
──まふゆは生きている。

願望かもしれない。マントは別の団員が落とした可能性もある。
それでもリヴァイは願わずにいられなかった。

再び、あの能天気バカな笑顔が見られることを。

『──兵長』



2025.09.27

switchゲームソフト進撃の巨人2参照
finalbattle前


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