ななななみ

わたしは七海建人という人間が好きだ。

いや、愛している。

付き合いたしし
ちゅーしたいし
あはーんうふーんみたいな事だってしたいし
なんなら結婚したいし
子供は男の子と女の子の二人を授かりたいし
病める時も健やかなる時もなんちゃらかんちゃらしたい。


「つまりね、七海。結婚しよ?」
「寝言は寝て言いなさい。」


わたし的に学生結婚もアリだと思うんだ!
と、熱弁してれば途端に入る茶々という名の灰原だ。

「仮にそうなるとしても禰寝ちゃんは後2年待たないと法律的に七海は入籍できなくない?」
「灰原ぁ〜〜〜〜〜うるさくな〜〜〜〜〜い????????」
人の恋路はイヌも食わんっていうだろ〜〜〜??????

あれ?
まぁ、そんなかんじ!

「そもそも、結婚とは。愛し合う男女が契りを交わすものだと認知しているのですが。」
「うん。つまり、わたしと、七海のことだよね?」
「はい?」

いつ、何時、何分にそのような事実がありました?
って呆れる七海にわたしは笑顔で吐いた。

「28歳のハロウィーンの日。渋谷の、地下鉄で。

七海はわたしにプロポーズしてくれるの。」



やけに具体的だね〜
と笑う灰原に、わたしはまた吐いた。

「わたしの完璧な未来予想図ね!!だから灰原ぁ!仲人、絶対してね!まずは灰原の確保無しに、わたしと七海のらぶらぶぶっちゅ〜〜〜〜な新婚生活無いから!ヨロシク!」

バチーンって灰原の肩を叩いてから宙ぶらりんになって灰原に肩組むみたいにして抱き着いた。
ぶら下がっているともいう!

「わたしの嫁入り修行、たぶんその頃に終わるし〜〜。っていう予定〜〜〜」

「貴女のくだらない未来予想図とやらに巻き込まないで貰えますか。」

ハァ、と吐き出された重たい溜息をとっさに両手でバチッて捕まえてパクリと食べるみたいにした。
「も〜〜七海ってば。溜息つくと幸せ逃げちゃうんだよ?だからわたしが食べてあげた!へへん!」
「……なんだろ。なんか、キュンってする場面な気がするのに。禰寝ちゃんだからか微塵もときめかないオトコゴコロ……。ふくざつだぁ」

おい灰原てめぇちょっとオモテ出ろや。


そうやって
今日も3人ぽっちの同級生と青春を謳歌したい気持ちもよそに、

祓って
治して
笑って
笑って
祓って
祓って
祓って


こんな日がいつまでも続くのかな。とか
いつまでも続けばいいな。とか
楽しいな。とか






疲れたな。
とか。











「禰寝ちゃんさ」
「んー??」
「ほんと、七海の事好きだよね。」
「うん。生まれる前から好きだしね。てか愛してる?みたいな。もう骨の髄まで捧げるレベル。だから七海、貰って?」
「とりあえず黙ってもらっても良いですか?」


長い映画のフィルムを落としたみたいに背景が流れて
向かってくる風が刃物みたいだった。

「灰原ぁ〜〜〜、ちゃんと居る〜〜???」
「うん、いるよ」
「灰原ぁ〜〜〜〜、五体満足〜〜?」
「うん、めっちゃ、走ってるし、両手で禰寝ちゃん抱えてるかな」
「灰原ぁ〜〜〜〜〜〜〜、お尻、触ってるでしょ〜〜?わたしの」
「うん、不可抗力かな〜」
「ねぇ灰ば「黙れ!!!!!!! 」」

もう黙りなさい
って、七海に凄く、すごくすごく怒られて。
わたしはギュって、ギュって、ちゃんと温もりのある、喋る、動く、灰原の背に顔を埋めた。

「馬鹿な事を!!!なんでっ、クソ!貴女の出しゃばる場でしたか?!ほんっとに、貴女って人は……!!クソッ」


ひゅー、ひゅー、って自分の喉から空気が抜けるみたいに音が耳の奥で響いて、
あまり力の入らない手でしがみ付いている誰かの存在を確かめるみたいにぎゅ、ぎゅって力を込めた。

「はぁ、ねぇ、はいばらぁ。はいばらだよねぇ?コレ、はいばらだよ、ねぇ?」
「っ、うん。うん。俺だよ。あってる。あってる。」
「はぁ……。うん。そっかぁ。いやぁ……、なんか。よく、みえなくって。へへっ、こんたくと……おとしたかも」


禰寝ちゃん、いつも眼鏡じゃ〜ん

って、なんか言葉を詰まらせながら灰原が
灰原がちゃんと

しゃべってて

隣を走ってたはずの七海の声がやけに遠くに聞こえて

わたしは、この両手で必死に灰原の、灰原という人間の体温を感じた。







わたし、ちゃんとできたかな?


え〜?ばっちりだよ〜〜!まずは安泰だね!!


そっかな?!!そうだよね!!!


うんうん!ばっちしだよーー!

いえーーい!
いえーーーい!



ぼんやりする夢の中で、16歳のわたしと28歳のわたしがパチンって手を叩き合わせた。









2回目なんて、きっともう無いから。



夢だと思った。

それがもし夢なら
長くて
長くて
苦しい夢だった。

喉が裂けるくらいに叫んだし
目が溶け落ちるんじゃないかってくらい啼いた。

こんな運命受け入れたくないと思ったし
酷い悪夢だと思って、夢だと思って、あの地下鉄で、目を閉じて。


目を開けたら。夢から覚めてた。




わたしは
七海建人という人間が好き。

愛しているし

生まれる前から、好き。







”今の私が”生まれる、前から。













運命って、信じる?

わたしはね、信じてるよ。

だって、今日。一つの運命を変えれた。たぶん。




「んー……」


鼻を掠めたのは消毒液の匂いで
あー、なんか。あたまぐらぐらするーー……って、頑張って眠りから目を覚ますみたいに、開かない瞼の下で目玉をごろごろと動かして、差し込む光が痛くて、目を開けるに開けれなくて。

ギュって右手が何かに締め付けられて、
ああ、誰かの手に握られてるのかなって。この手が七海ならいいのになって。

「ッ禰寝ちゃん!!!!!」
「……んっだよ、灰原かよ」


儚い想い虚しく、わたしの手をがっちりと握りしめていたのはまごう事なき灰原で。












「灰原ぁ……、ちゃんと生きてるぅ〜??」
「死っ、にそ、なの、禰寝ちゃんだけど、ねッ……! 」


ピッピッ、って鳴る機械の音と
身体に繋がれた管が、

わたしにとっては成功の証だった。


「仲人灰原、ゲーット、!へへっ」


わたしと七海の結婚式に、おまえが居ないんじゃ話になんないからね!



ハァ、って聞きなれた溜息が聞こえて
「ななみぃ〜、ため息、つくと……しあわせ、にげちゃう、って〜」

「そう、でした……ね。……飲み込んでおきます。」
「うん〜〜、そうして〜〜〜」


俺、家入先輩呼んできます
って、灰原がトタトタ足音を鳴らして。
なんだかその音がとても心地よくて、ふんわりと瞼を閉じれば
だいすきな人の声が優しく降り注いだ。

「もう少し、眠っていなさい。」









起きた先が悪夢じゃありませんように。

これが、ゆめじゃありませんように。

って

心からそう願って、わたしは微睡みに溺れるのだ。



そっと左手を包み込む暖かさは、きっと夢じゃないよね。って。





願った。









あ、夏油先輩の反抗期も止めなきゃ〜〜

あ〜〜
いそがし
いそがし


こんな都合のいい話、きっともう、二回目は無いから。
そう言い聞かせて
わたしは ”これから起こるであろう出来事” を、微睡みの中整理するのだ。









七海、わたしが、 ”今度こそ” 守るからね。



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