君を愛すのは大変だ

 カーテンの隙間から差し込む日の光の眩しさでゆるりと意識が浮上した。
 今何時だろう。そんなことを考えながら最上は目を閉じたままシーツの海を無造作に撫でる。

 ……ふと、すぐ傍に何者かの気配を感じた。

「ん……?」

 眩しさに顔をしかめつつも瞼を持ち上げる。喉に少し違和感を覚えつつ、徐々にはっきりしてくる世界。真っ先に最上の視界に写ったのは――

「起きたか」

 ――同じく眠そうな顔をしてこちらを見つめる、松田の姿だった。

 眩しく感じた日の光を背に受けながらゆるく微笑んでいる松田は、最上をその腕の中にしっかりと閉じ込めており、その身体には何も身に纏っていない。その姿を見て、昨晩の一連の流れを一瞬にして思い出した。

「(そうだ。昨日は陣平くんとシた後、そのまま……)」

 ぶわわ、と熱くなる顔を恥ずかしそうに隠して小さく唸る。

「うぅ……」
「なんだよ、今頃照れてんのか」
「だって昨日は、その……雰囲気とお酒の力があったから……」

 至近距離で見つめてくる松田に目を合わせることも出来ずに最上は言い訳を並べる。その様子を松田は実に楽しそうに聞いていた。

「身体に違和感はねぇか?」
「喉がちょっと変なのと、腰が痛い……」
「あー…… 昨日は流石に無理させすぎたからな」

 思うところがあったのか少しバツが悪そうにつぶやく松田。

「悪い」
「いいよ。止めようとしてた陣平くんを焚きつけたのは……私だし」

 そこまで言ったところで最上は恥ずかしそうに俯きながら、松田の胸元にぐりぐりと頭を押し付ける。くすぐってえよ、と松田は困ったように笑った。

「焚きつけた自覚があって助かったぜ。あれで無自覚なら恐ろしい奴だ」
「そ、そこまで言う……?」

 戸惑いがちにこちらを見上げる最上に松田はひひ、と歯を見せて笑った。その頭をゆるゆると撫でてやる。伸びた黒髪をくるくると指に巻いて遊びながら松田はしみじみとつぶやいた。

「にしても、昨日はかざねが何ともなくて本当に良かった」
「何とも……?」
「これでも一応考えてたんだぜ? シてる時にあいつのこと思い出されたらどうしよう、ってな」

 そう言われてはたと気づく。そういえば昨晩は"あの人"の姿が少しもちらつかなかった。思い出す可能性はいくらでもあったのにも関わらず、である。

「確かに、全然そんなことなかった」

 緊張していて正直それどころじゃなかったせいだろうか。最上が布団をもぞもぞさせながらぼんやりと考えていると、頭上で松田がぼそりとつぶやく。

「……思い出させる暇もないくらい、してやったからな」
「え?」

 ぱっと松田の方を見上げる。彼はムッとした表情をしながらどこか遠くを見るように視線を逸らしていた。すり、と最上の後頭部を撫でる。

「抱いてる最中に俺以外のやつのこと思い出されるとか、やっぱムカつくし。……なら、俺しか考えないようにしてやろうと、思って」

 だんだんとその顔が赤くなってきた。視線を逸らしていたのは恥ずかしかったかららしい。松田も松田なりに色々と考えてくれていたのだとわかり、最上はそれだけで胸の内側から満たされたような、温かい気持ちになった。
 なんとなく互いに気恥ずかしい空気が流れ始めたので、その流れを変えようと最上が思い出したかのように尋ねる。

「そういえば、今何時?」
「もうすぐ10時」

 時計を見た松田はそろそろ起きるか、と言いながら上体を起こす。くあ、と大あくびを零しながら寝癖混じりの頭をポリポリと掻いた。

「今日は天気いいし、汚しちまった布団とシーツまとめて洗っちまおうぜ。そんで待ってる間に一緒に飯作って食おう。午後は……そうだな、布団干しながら溜まってたドラマでも見るか。適当に買ったおやつでも食いながらさ。それで夜になったら、飯食って風呂入って、干したての布団とシーツにくるまれて、一緒に寝よう。明日は俺らどっちも早いし」
「ん、いいと思う」
「……の割に、全然布団から出ようとしねぇのはどこのどいつだよ」

 布団にくるまったままの最上を苦笑交じりにぽすぽすと叩く。その手を布団越しに感じながら、未だに眠そうな目をした最上は言った。

「そのプランもいいけどさ」
「うん」
「もうちょっとだけ、このまま、でも、いい……」

 なんちゃって。照れたようにはにかむその姿に、松田は目を見張る。フッとどこか呆れたような、それでいて愛おしくて仕方がないような、そんな笑みを浮かべた。

「それもそうだな……どうせ時間はあるんだ、し」

 ぼす、とベッドに再び寝転がり、布団に潜り込む。至近距離で目と目が合った。素肌を触れ合わせながらぎゅっと抱きしめる。

「もう少し、このままでいるか」
「……ん」



 ―――君を愛すのは大変だ まつ毛とまつ毛を触れ合わせて笑った



 暖かな日差しが差し込む部屋で、ふたりは笑い合い、目を閉じる。
 穏やかな朝のひと時だった。