※謎時空注意※
授業が終わったお昼休み。どこでお弁当を食べようかと外を歩いていると、ちょうど2年生の先輩方に遭遇した。向こうもこっちに気づいたようで、名前を呼びながらこいこいと手招きをしてくれる。思わず嬉しくなって私は走ってそちらに向かった。
「こんにちは先輩方! 任務終わりですか?」
「ああ。ついさっき帰ってきたとこだ。タイミングよかったな」
おかえりなさいと言えば、真希先輩はただいまと言って微笑んでくれる。するとパンダ先輩の影からひょっこり顔を出した狗巻先輩が不思議そうに訪ねてきた。
「明太子?」
「他の一年ですか? 実は今ちょうど任務に出払ってて」
今日の夕方には帰ってくるらしいんですけど、と続ける。
私が持っているのは戦闘系の術式ではないため、こうして置いていかれるのは今回が初めてではない。待っていることしかできないため辛いこともあるが、今は逆に私にしかできないことを頑張ろうと思えるようになり、現在その道を模索している最中だったりする。
「それでお昼どうしよっかなーって思ってたんですよ」
そう言いながら右手に下げていたお弁当を軽く持ち上げる。そんな私の返事を聞いて、パンダ先輩が思いついたかのように言った。
「そうだ、昼まだなら俺たちと一緒に食わねえか? ひとりよりそっちの方がいいだろ」
「え、いいんですか?」
「いいよ全然。ただ私とパンダは学長にちょっと用があるから、ふたりは先に食っててくれ」
「了解です!」
んじゃよろしくな、と言い残して真希先輩とパンダ先輩は行ってしまった。残された狗巻先輩はといえば、どこかいつもよりもソワソワしている気がする。なんだか居心地が悪そうというか……もしかしたら一人だけ残されて戸惑っているのかもしれない。
「もしアレなら先輩も行っていいんですよ?」
「っおかか! た、高菜……」
「そうですか? ならいいですけど」
やっぱり狗巻先輩の様子がおかしい気がするけど、それをもう一度問いかけようとしたところでぐう、と私のお腹が鳴った。顔に熱が集まるのを感じながら、照れ隠しに後頭部をかく。
「と、とりあえず食べましょうか。先輩はお昼持ってます?」
「ツナマヨ〜」
じゃじゃーんと取り出したのはコンビニの袋。帰ってくるときに買ってきたらしい。そうと決まれば早速どこで食べるかの場所決めをしなくては。今日は天気もいいから、どこかの木陰でピクニック気分で食べるのも悪くなさそうだなぁ。そう思っていると、狗巻先輩がちょんちょんと私の肩をつつく。
「どうかしましたか?」
「すじこ」
そう言って指さしたのは、運動場のすぐそばに生えている大きな木の下だった。たしかにあそこなら地面が階段になっているから座りやすいし、木の影にもなっているから比較的過ごしやすいだろう。そこにしましょうと言って私たちは早速そこに腰掛けた。私の右隣に座って太ももの上にレジ袋を置いた狗巻先輩にさりげなく問いかける。
「先輩は何買ったんですか?」
「明太子〜」
ガサガサとレジ袋を鳴らしながら取り出したのは焼肉弁当だった。しかもご飯大盛り。
「先輩って見かけによらずいっぱい食べますよね」
「ツナツナ」
そう言いながらぐっと両腕のちからこぶを強調させる。確かに呪術師って、体力がなきゃやってられないもんね。すると今度は狗巻先輩がこちらに問いかけてきた。
「昆布?」
「私ですか? 私はですね……」
じゃーんと取り出したのはお手製のお弁当箱。中にはおにぎりがふたつと簡単なサラダと唐揚げが入っている。そこまで豪勢なものではないけれど、狗巻先輩は美味しそうだと言ってくれた。
実は今日は理由があってこのお弁当なのだけれど、先輩は知っているだろうか。私は昨日スマホで見た知識を得意げに披露する。
「先輩知ってましたか? 今日はおにぎりの日なんですよ!」
「たらこ?」
「はい! だから今日は絶対おにぎりにするんだーって決めてたんです」
そうなんだと驚く狗巻先輩。その顔がなんだか素直な子どものようで可愛くて、私は思わずちょっと笑ってしまった。
「さて、お腹も空いたし食べちゃいましょうか」
「しゃけ」
いただきます!と言って私たちは早速食べ始める。私はお目当てのおにぎりにかぶりつき、狗巻先輩はぱきっと割り箸を割って大きな口で焼き肉弁当を頬張り始めた。おお、ひとくちが大きい。それに加えて、戦闘時以外は見られない口元が顕になっているのがなんだか不思議な気がした。
「
口いっぱいにご飯を頬張りながら先輩が尋ねる。
「美味しいですよ!」
「ツナ?」
「具ですか? 具は明太子とツナマヨです」
「しゃけ〜」
「先輩もおいしいですか?」
私が聞くとむぐむぐ口を動かしながらOKサインをしてみせた。食べるのに夢中になっているのが男の子って感じだ。
そこでふと、左の頬にごはん粒がついているのを発見する。
「あ、先輩、ごはん粒ついてる」
「昆布?」
「あーそっちじゃなくて」
ぺたぺたと触るがなかなかご飯に辿り着けない先輩を見かねて、私はスッと手を伸ばした。先輩の頬に指先が軽く触れた瞬間、先輩の肩が大袈裟に跳ねた。その紫の瞳が大きく見開かれている。
「あ、すみません、つい……」
「っお、おかか! 明太子! いくら……」
こっちこそごめんと謝る狗巻先輩。なんだかやっぱり今日は様子がおかしい。私は改めて先輩に聞いてみることにした。
「先輩、今日何かおかしいですよ。何かありました?」
もしやさっきまでの任務で何かあったのだろうか。
すると狗巻先輩は少しだけ迷うように視線を彷徨かせた後、意を決したように割り箸を置いた。紫の瞳が真っ直ぐにこちらを見る。
「う、梅、たらこ、高菜、ツナマヨ……?」
“今度一緒に猫カフェに行きませんか?“
狗巻先輩の突然のお誘いに、私は思わずパチクリと瞬きをする。
「猫カフェ……ですか?」
「お、おかか?」
「いえ、嫌とかそういうわけではなくて!」
不安そうにしている狗巻先輩に私は慌てて弁解する。
「行きたいです、猫カフェ。先輩と一緒に!」
「っツナマヨ……!」
とても嬉しそうにしている狗巻先輩に、私は思い出したかのように言う。
「先輩と一緒にお出かけなんて初めてじゃないですか?」
楽しみだなあ、とつぶやく私に狗巻先輩は嬉しそうに微笑んだ。
***
「おーそれで猫カフェ誘えたのか、良かったな」
「しゃけ〜 たらこ、ツナマヨ!」
「ふたりのおかげだって? 俺たちは別に大したことしてねえよ」
「行くのは今週末か?」
「しゃけ!」
「おし、今度こそ頑張れよー」