『子どもの日』という素晴らしい祝日

「はーい悠仁くんこっちむいて〜!」
「ん!」

 声を掛けながらカメラを向ければ、嬉しそうな笑顔でこっちを見てくれる悠仁くん。いつだって最強最高に可愛い悠仁くんだが、今日は一味違う。頭には私が新聞紙で作った兜、右手には同じく新聞紙で作った刀……とくればもうお判りだろう。
 そう、今日はゴールデンウイーク最終日。いわゆる子どもの日なのだ。

「どりゃー!」
「ああああああああ可愛い!!! いいよ悠仁くん!!!!」

 自信満々に戦隊ヒーローのポーズをとる悠仁くん。うーん可愛い!!! 可愛い!!!!! シャッターを押す指が止まらないよ悠仁くん!!!! 最近なけなしのお小遣いをはたいて買った一眼レフのシャッターを切りながら私はデレデレの笑みを向ける。テレビとちゃぶ台がある和室でそんなことをしていると、玄関の扉が開く音がした。

「帰ったぞー」
「! じーちゃん!」

 ぴこん!と頭上にビックリマークが見えそうな反応をした後に、ドタドタと足音を響かせながら悠仁くんが玄関へ駆けて行く。私もカメラをちゃぶ台に置いてから後をついていくと、玄関で悠仁くんが兜をおじいさんに自慢しているところだった。

「これっ! ねーちゃんが作ってくれた!!」
「ほー こりゃ随分立派なモンこさえてもらったな、悠仁」

 ぴょんぴょん跳ねながら見てみてと新聞紙で出来た兜を自慢する悠仁くんに、思わずほろりと泣きそうになる。なんて幸せな光景なんだ……。
 するとこちらに気付いたお爺さんがにかっと笑う。

「嬢ちゃんもただいま」
「おかえりなさい。買い物行ってもらって助かりました、まさか卵忘れるなんて……」
「いやぁ、いつも悠仁の面倒見てもらってる分のお礼だよお礼」

 お爺さんからスーパーの袋を受け取る。中にはお願いした卵と手持ちサイズの小さな鯉のぼりが入っていた。実は今日ちらし寿司を作る予定だったのだが、卵を買い忘れたのである。そこでお爺さんが「先に作れる分は作っておくといい」「悠仁をよろしく」と快く買い物を引き受けてくれたという経緯があるのだ。
 ありがたい気持ちでいっぱいになっていると、袋から若干はみ出した鯉のぼりを見つけて悠仁くんは目を輝かせた。

「こいののぼりだ!!」
「ぶっ」

 あまりの衝撃に思わず吹き出してしまう。え??? 今なんて??? 悠仁くんの可愛らしい口から最高に可愛いボイスで『こいののぼり』ですって……??? ここは天国かな????
 それを聞いたお爺さんは軽く腰をかがめて悠仁くんに視線を合わせる。

「悠仁、これは鯉のぼりだ。鯉のぼり。もう1回言ってみろ」
「こいののぼり?」
「だああぁもう!」

 おじいさんは言い間違いを直そうとしているが、悠仁くんは一向に正しい発音で言うことができない。鯉のぼり!こいののぼり! の言い合いがしばらく続き、最終的には正すどころか「こいぼのり」に落ち着いてしまった。

「こいぼのりー!」

 発音が面白かったのか、ケラケラ笑いながら言う悠仁くんにおじいさんは頭を抱えている。対する私は内心録音したい気持ちでいっぱいだった。子供の言い間違いほど可愛いものはない。最高。国宝に指定した後に着メロにしたい。

「ったく……」
「まあいいじゃないですか。私は好きですよ? こいぼのり」

 ニコニコしながら私が言えば、「嬢ちゃんは悠仁にあめえからなぁ」と苦笑されてしまった。出会ってひと月ちょっとで私の趣味嗜好はばっちり見抜かれているようである。袋から鯉のぼりを取り出して悠仁くんに渡す。悠仁くんは両手でそれを受け取ると、

「ねーちゃん、こいぼのりありがとーな!」

 と言ってにぱっと微笑んだ。何この子……天使じゃん……知ってたけど……死ぬほど可愛い……。
 咄嗟に心臓を抑えて倒れ込みたいのを必死にこらえていると、台所の方でピーピーと電子音が鳴った。ご飯が炊けた合図だ。

「お米焚けたみたいなので、私台所に戻りますね。すぐにできますから!」
「ごはん!」
「おー そりゃ楽しみだ。何か手伝うことあるかい?」
「じゃあお皿の準備お願いしてもいいですか?」
「了解した」

 ほらいくぞ!と言いながらおじいさんは悠仁くんを連れてテレビのある部屋へ向かう。その姿を見送って、私は台所へと足を向けた。


***


「……で、これがその時作ったちらし寿司と、ちらし寿司を食べる悠仁くんのベストショットです」
「軽い気持ちで訊くんじゃなかった」

 最近買った4月はじまりの手帳の中から新たな写真を取り出しながら真剣な顔で言う私に対し、同期の七海はすっかりげんなりした顔をしていた。それを見た同じく同期の灰原はケラケラ笑っている。

「落とした写真拾って『この子誰?』って訊いただけでこんなことになるとはね!」
「もう二度とこんなことはしないと心に誓いました」
「ええー! いいじゃん聞いてくれたって! 悠仁くんはいつだって可愛いから七海だってきっと好きになるよ!! あ、好きといえば去年のクリスマスに悠仁くんがさー」
「わかったから、もう口を開くな」

 座っている机に頬杖をつきながら七海は疲れ果てたように深いため息をついた。



 相変わらず幼児の愛で方が変態なお姉さん
 →悠仁くんが可愛すぎて「携帯カメラの画質じゃ満足できない」といきなり一眼レフを買ったヤバイ人。1年で撮りためた写真はすべて高専の寮に持ち込んでおり、春夏秋冬でアルバムが4冊ある。頭がおかしい。そこから派生して写真が趣味になった。任務がない日はカメラ片手に散歩するんだとか。

 鯉のぼりが言えない悠仁くん
 →幼児の言い間違いってなんであんなに可愛いんでしょうね……(悶え) その後「おれも手伝う!」と言って一緒にちらし寿司を作って食べた。この一件のせいでお姉さんは鯉のぼりを見るたびに「こいぼのり!」と言う悠仁くんを思い出して顔をにやけさせることになる。

 お姉さんの同期(苦労人&能天気)
 →本編よりも先に登場させてしまった……。入学してまだ距離感図ってるような時にこれをしたもんだから、一気に「こいつヤバい奴だ」とふたりに認定されることになる。3人の関係性が確立した瞬間だった。ふたりともなんだかんだ話は聞いてくれるので、これからことあるごとに悠仁くんの話を聞かされることになる。

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