ほろ酔い気分な君と私

※同棲設定※


 午後23時半。ガチャガチャと鍵が開く音がして、私の家の玄関が開く。ぺたぺたと足音を響かせながら中に侵入してきたその人物は、私を見るなり実に楽しそうに言った。

「ただいまぁ〜」
「おかえり研二くん……って、酔ってる?」
「んー ちょっとだけ」
「ちょっとにしては顔赤いだけど……」

 ソファに座った私を後ろから抱きしめる彼の顔を見て私は言う。そういえば今日は確か、同僚何人かと飲んでくるって言ってたっけ。いつもよりもほんのりと頬が赤く染まって、なんだか雰囲気がポヤポヤしているような気がする。普段はかっこいい彼の、ちょっぴり可愛い姿にちょっとだけ胸がきゅんとした。

「大丈夫? お水飲む?」
「んー……ふふ、いいにおい」
「話聞いてないね」

 研二くんは私のうなじあたりに顔を埋めてすうっとにおいを嗅いだ。男の人にしては少し長めの前髪がくすぐったくて、ついつい変な声が出そうになるのをなんとか堪える。彼の吸っている煙草のにおいに混じって、微かにアルコールのにおいがした。

「ほら、ちょっとどいて。お水飲もう」
「ええ〜 なまえちゃんがつめたい……」
「冷たくない」

 唇を尖らせてぶうぶうと文句を言う研二くんを無視して、私はソファから立ち上がった。そのまま冷蔵庫に向かえば、研二くんは背後霊のように付いてくる。冷蔵庫から未開封のミネラルウォーターをとって彼に手渡した。

「はいお水。こぼさないでね」
「ねえ、きみが飲ませてよ、これ」
「水くらいひとりで飲めるでしょ」
「飲めねえの。だからほら、ね。いいでしょ? ねぇ」
「もー……」

 呆れたようにじろりと見れば、研二くんはニコニコと微笑みながら私の手を引いた。そのままふたりで並んでソファに腰かけようとしたけど、無理矢理研二くんの膝の上に座らされてしまった。こうすると少しだけ私の方が視線がほんの少しだけ高くなるから、自然と彼に見上げられるような形になる。楽しそうに私の方を見つめている彼を他所に、ぱきりと音を立ててキャップを開けた。お望みどおりにそれを研二くんの口にそっと近づければ、彼はムスッと不満そうに唇を尖らせる。

「ほら、口開けないと飲めないよ」
「そうじゃねえってば」
「違うの? だって飲ませてって」
「そうじゃなくて……なまえの口移しがいいの」
「へ!?」
「ねー 飲ませてよぉ」

 間延びした声でねえねえとせがむ研二くん。前々から酔うと甘えたになるのは知っていたけど、こんなことをリクエストされたのは初めてだった。自然と顔に熱が集まる。流石にそれはと躊躇う私を急かすように、研二くんはすりすりと私の胸元辺りに擦り寄った。

「ほら、はーやーく」
「そ、そんなの、はずかしいよ……」
「なんでぇ? いつもはもっと恥ずかしいことしてるのに?」
「そっ! それとこれとは別だから!」
「ええ〜?」

 そうなの?と言いながら首を傾げる。ぎゅうと抱きしめるように腰のあたりに手が回されて、これはきっと彼の言う通りにするまで開放してもらえないんだろうなと思った。私は観念したように研二くんを見る。

「……目、閉じてて」
「おっけー」

 そう言って素直に目を閉じる。私は一度深呼吸をしてからペットボトルに口を付けた。冷たい水を含んでからキャップを閉め、テーブルに置く。未だに目を閉じたままの研二くんの頬を包むように両手でそっと触れて、そのまま唇を押し当てた。薄く開いた口から水を流し込む。こくん、と、彼の喉が控えめに鳴った。次の瞬間。

「んぅ!?」

 不意に口内に彼の舌が侵入してきた。そのまま私の口内をひとしきり堪能してから、口を離す。私たちの間に引いた銀糸がつうっと途切れた。

「ふふ、ごちそーさまぁ」

 美味しかったよ、なんて言いながら研二くんはふにゃりと笑う。今にもとろけそうなその笑顔は幸せで仕方ないといった様子がこちらにも伝わってくるようで、思わずどきりと心臓が跳ねた。

「あ、なまえ、顔赤い。かーわい」
「もう、研二くんってば」

 つんつんと私の頬をつつきながら彼はへらへらと笑う。どうしたって彼に弱い私は、それを黙って受け入れている。ああもう、顔が熱くて仕方ない。

「ねぇ、もーいっかい飲ませてよぉ」
「も、もうしないから! 後は自分で飲んで!」
「いいじゃん。ねぇ、もっかい」

 不満そうな声を漏らす研二くん。
 その後、彼からのおねだりに折れた私が再び口移すことになったのは言うまでもない。