ソシャカス女子高生とコナンくん

「コナンくん、ちょっとここタップしてくれないかな。ほんのちょっとでいいから」

 ポアロでのんびりとオレンジジュースを啜っていると、見慣れた制服姿がすすすと寄ってきて虚ろな瞳でスマートフォンを差し出してきた。その画面に表示されているのはとあるソーシャルゲーム。俺は呆れたようにそっと持ち主に視線を送る。

「……なまえ姉ちゃん。無駄遣いは良くないと思うよ」
「むっ……無駄遣いじゃないよ!」

 何をおっしゃる!!と慌てたように言い訳を並べ始める彼女を見て、俺は小さくため息をついた。

 彼女の名前はみょうじなまえ。蘭と同じく俺の幼馴染だ。

 昔から好きなことに一直線。物心ついた時に出会ったアニメをきっかけにオタク道を邁進し紆余曲折、今に至る……といったような人物だ。今まで漫画やアニメに夢中になることが多かったこいつだが、ここ最近は男性アイドルを育成するタイプのソーシャルゲームにはまっているらしい。この人のこんなところが素敵だとか、耳にタコができるほど聞かされたせいで今では普通の人よりは格段にこのゲームに詳しくなってしまった。そのゲームをやっていないにも関わらず……だ。

 そしてなまえが好きなキャラクターがガシャに登場するたびに、俺は彼女に頼まれて代わりにガシャを引いてやっていた。毎回これが最後と言いつつ渋々引いてやるのだが、その度に一発で彼女の欲しいものを引き当てるため、毎度重宝されていたのである。今回もそのようだ。

「だって今回のカード見てよ! この若干目を細めて目を潤ませたような儚げな表情!! もう過去最大級に顔がいい! あっだからって今までがそうでもないかって言われたらそういうわけじゃないんだよ? 今までも最高、でもこれは最高のそのまた上……最高オブ最高なんだよ!! 勿論顔だけじゃなくて、ほら、ここ見て。左手のこの指。とんでもない作画だと思わない? 絶対このゲームの作画担当に手フェチいるでしょってレベルで変態作画だと思わない? そう思うよね! それからほら、今回の衣装はきちんとしたスーツなんだけど、この肩のところ……見てよこれ……服のしわ、すごすぎない? こんな柔らかい表現できる? スーツの生地特有のしわの付き方までこだわってるとかどんだけだよって感じだよね。それに色合いもさ、ちょっとこの、背景の月明かりのエフェクトがいい感じになって、ふわーってなってて! とにかくもう、流石私の推し!! 最高!!! って感じ!!!!」

 きらきらと瞳を輝かせながらガシャ画面を見せつつ上記のセリフを一息で言い切るなまえ。ころころと表情を変えながら何とも楽しそうに彼について語る姿を見ていると、なんだか胸の内側がもやもやとしてくる。言い表せない不快感のようなものが身体の内側に満ちて、表情にまでそれが現れそうになる。彼女は、それに全く気が付いていないみたいだったけど。

「だから、ね! 一回だけ! ここちょんって押すだけでいいから!」
「それこの間も言ってなかった?」
「だって前回もコナンくん10連一発で私の推し出してくれたじゃん! もうお金も無いし、コナンくんしか頼れる人がいないんだよ〜!」

 この通り!と手を合わせて小学生相手に本気で頭を下げる女子高生。傍から見たら大分異様な光景だろう。それだけ彼に対して彼女は本気なのだ。また胸のもやもやが大きくなる。
 だがここまで頼まれれば断るのもなんだか心が苦しい。仕方なく俺はため息をつきながらなまえからスマートフォンを受け取る。

「……わかったよ。これが最後だからね?」
「!!」

 ぱっと顔を輝かせて彼女は俺の隣に座った。テーブルに置いたスマートフォンをわくわくしながら見つめている。肩が触れ合うその距離感にほんのちょっと動揺しつつ、俺は画面をタップする。少しでもいいものが来ますように。そう願いをかけながら。

 画面が切り替わり、演出が始まる。それを見た瞬間、隣にいた彼女は息を飲んだ。

 数秒して表示されたのは、彼女が本気で欲しがっていたカード。

「や、やったーーー!!」

 店の中ということを忘れてしまったかのように彼女は飛び上がった。スマートフォンを手に取り興奮を隠さぬ様子で何度もスクリーンショットを撮る。
 ちょっと落ち着かせようと声をかけようとした時、彼女の視線がこちらに向く。そしてあっという間にぎゅうと抱きつかれてしまった。

「ありがとうコナンくん! やっぱ物欲センサーが無いコナンくんが引いた方が出るわ!」

 ぎゅうぎゅうと少し苦しくなるくらいの強さで抱きしめてくる彼女。その上頭をわしゃわしゃと撫でてきた。顔がカッと熱くなるのを感じる。

「バッ……なまえ姉ちゃん! 離して!」

 たしたしとなまえの身体を軽くたたく。だが彼女は一向に聞き入れることなく俺を抱きしめ続けている。店内からの視線が痛い。ますます顔に血が上ってく。いつまで続くんだと思っていると、彼女は唐突に身体を離した。

「うわ、もうこんな時間……! 私バイト行かなきゃ! 今日は本当にありがとうねコナンくん! また推しがガシャだった時はよろしく!!」

 そう言って慌てて店を飛び出していった。本当に毎回毎回、嵐のようなやつだな……。乱れた髪を直しながらしみじみ思う。

「……今回が最後だって、言ったろ」

 全く、夢中になると人の話を聞かないところも昔から変わらない。毎度最後だと言ってるのに、それでもお願いと頼み込まれて渋々折れる俺も相当あいつに甘いけど。心の底からありがとうとお礼を言う彼女の笑顔を思い出して、また頬が熱くなる。

 でも、あいつがあんなに喜んでくれるなら……まあ、いいか。

 なまえの出て行った店内入り口の方を見ていると、ふと視線を感じてそちらに顔を向ける。そこにはいつものようにウエイター姿の安室さんが立っていた。その口元はゆるく弧を描いている。

「……どうかした?」
「いや? 君も案外わかりやすいんだと思って」
「なっ……!!」

 ぶわりと熱くなる顔。そんな俺を見て安室さんはからかうようにくすりと笑った。