休日、久しぶりに団子屋のバイトをするため町へ出かけた。店長、元気にしてるかなあ。最近なんだかんだ忙しくて顔をだしていなかったから、ひょっとしたら怒っているかもしれない。

「店長ー、なまえですー。覚えてますかー?」

「お、なまえちゃん。久しぶりだねえ。1ヶ月も経ってないのに忘れるわけないだろう」

「いやあ中々仕事が忙しくて」

「それはご苦労さん」

「ありがとうございます。あ、いきなりなんですが今日バイト入ってもいいですか?」

「今日かい?別に構わないけど……あ!」

「どうしました?」

「いや、最近俺の知り合いの豆腐屋の主人のかみさんが倒れて人手が足りないらしいんだ。出来たら、そいつを手伝ってもらいたいんだが……」

「全然いいですよ。お金がもらえるなら何でもやります」

「すまないね。場所はわかるかい?」

「はい。何回か行ったことがあるので」

「それはよかった。じゃあ、頼んだよ」

安心した様子の店長に手を振り別れる。豆腐屋かあ。どんなお手伝いがあるのだろうか。いきなり豆腐をつくれって言われることはないだろうけど、少し不安だ。要領は悪くない方だし、今まで色んなバイトはしてきたから大丈夫だとは思うが、店長の知り合いと言っていたから、もし失敗をして迷惑をかけてしまったら店長の株を下げてしまうことにもなる。
ぶっちゃけた話、ドクタケ城の事務員の面接を受ける前の時より緊張している。
店先に着いたときピークに達した緊張を解すよう、一つ、大きく深呼吸をした。

「あの……」

「いらっしゃい」

「えっと、私、客じゃないんです。団子屋で働いてるなまえと申します。、店長に言われてバイトをしに来たんですが……」

「ああ。あいつのとこの!話には聞いてるよ。よく働いてくれる真面目でいい子だって。いやあ助かるよ」

明るい声でそう言ってくれる豆腐屋のご主人は笑顔を浮かべてはいるものの、その目元にはうっすらと隈が出来ている。奥さんの看病とお店を両立するのは相当骨が折れることなのだろう。私が1日だけバイトしたところで彼の疲れが緩和されることはないだろうが、少しでも力になれるようお金のためにもご主人のためにも、頑張らなくては。

「私にできることなんて少ないでしょうが、なんなりと申しつけてください」

「そうだねえ、そうだ!今日は忍術学園の食堂のおばちゃんに豆腐をニ十丁届ける日なんだけど、それの配達を頼めるかい?」

「忍術学園、ですか」

「駄目かな?」

「あ、違うんです!全然いきます!」

ただ、最近やたら忍術学園に関わるなあと思っただけだ。あそこには小松田さんや乱太郎くんきり丸くんしんべヱくん、一回しか話したことないけど黒木くん、それからバーベキューのときに助けてもらった善法寺くんや髪結いの斉藤くん、つい先日知り合いになった食満もいる。こうやって考えると、ずいぶん忍術学園に知り合いができたなあ。

「ならよかった。でも、女の子一人で二十丁は無理があるな……。どうしようか」

「あの、私、かなり力持ちなんでそれくらいいけますよ?」

とは口では言ったものの、本当は二十丁はすこし厳しいなと思ってしまった。しかし、ここで私が断ったら一体何のために今日ご主人の手伝いにバイトしにきたのかがわからなくなってしまう。それに、お金のためだと思ったら、二十丁でもいけるはずだ。

「本当に大丈夫?」

「はい」

「じゃあ、途中休みながらでいいから頼んだよ。無理しなくていいからね」

「わかりました」

団子屋の店長もだが、豆腐屋のご主人もなかなか過保護だ。こちらとしては、お金を貰って働いてる身だからもっと雑に扱ってもらっても大丈夫なのに。

「気をつけてね」

渡された桶は豆腐二十丁が入っているため、かなり重たかったがそれを顔に出さないよう、笑顔でご主人に「いってきます」と言った私は本当に労働者の鑑だと思う。
この町から忍術学園まではそう遠くはないが近いわけでもない。ちんたら歩いてたら夕食の準備に間に合わなくなってしまうかもしれない。
とはいったものの、

「お、重たい……」

歩き始めたばかりだというのにもう腕がパンパンだ。
正直に言おう。
……ぶっちゃけ私一人で二十丁とか無茶だろ!
引き受けた自分が悪いのはわかっているが、やっぱり無理なものは無理だ。
そっと桶を地面に置き固まった腕を揉みほぐしながらどうしたものかと考えるていると、誰かが歩いてくる気配がした。顔をあげれば向かい側から男の子が歩いてくるのが見える。しかも、気のせいでなければ私の方に来てる……?

「あの」

「は、い」

「豆腐屋の方ですよね?」

「え?そうですが……」

なぜそれを、と聞こうとしたが私の言葉にパアッと表情を明るくする男の子をみて何も言えなくなった。何なんだこの人。

「よかった……。これで麻婆豆腐定食が食べれる……」

「えっと……」

「あ、申し遅れました。忍術学園五年い組、久々知兵助っていいます」

深々とお辞儀をする久々知くんにつられ「豆腐屋で臨時のバイトをしているみょうじなまえです」と頭を下げる。何なんだろうこの状況……。

「なまえさんですね。わかりました。じゃあ、行きましょうか」
「え」

ひょいと豆腐の入った桶を軽々持ち上げる久々知くんに呆気にとられていると「俺が運びますね」と意味不明なことを言われた。

「いや、あの、ちょっと」

「どうしました?」

「どうしたもこうしたも、それ、私が運びますから!」

「どうして?」

「私の仕事だからです!それに、久々知くんが運ぶ必要はないでしょう?」

「食堂のおばちゃんに頼まれたんですよ。豆腐屋のご主人が忙しそうで配達にきてもらうのは申し訳ないから受け取りにいってくれって」

「でも……」

これじゃあサボリになってしまうんじゃ……。
しかし、そんな罪悪感を感じている私なんかお構いなく久々知くんはスタスタと歩き出した。ちょ、えええ。

「しんどくなったらすぐに代わりますから」

「大丈夫ですよ。鍛錬してますし」

「さ、左様ですか」

白い歯を覗かせ笑う久々知くんは鍛えていることをアピールするかのように豆腐の入った桶を軽々と片手で上下させている。
見た目は結構スラッとしているのに、意外だ。
最初は申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど、やたら嬉しそうに桶を持つ久々知くんを見てたらまあ本人が望んでるみたいだしいっかという結論にたどり着いた。私に損はないし。バイト代が貰えたらそれでいい。今楽してる分は後々還元していこう。

「そうだ、久々知くんは豆腐が好きなんですか?」

「!」

無言で忍術学園まで歩くのも気まずいし、なんとなく、そう訊いてみると只でさえ大きな久々知くんの瞳がカッと開いた。

「ど、どうして……!」

「え、違いますか」

「まさか!違いません!大好きです!この世で一番!まず豆腐の評価すべきところは滋味に富み良質なタンパク質が摂取できるところで古代、仏教徒にとっては貴重な栄養源だったんです。どんな料理にでも調和する食材は豆腐の右にでるものはありませんね。もちろん、冷や奴や湯豆腐で豆腐単体を味わうのもいいですが麻婆豆腐や肉豆腐にして食べるのもいいですよね。ちなみに俺は」

私の質問は久々知くんのスイッチを入れてしまったらしい。
頬を赤らめ暑い口調で豆腐について語る久々知くんは少しいやかなり異常だ。
……いつまで続くんだろう、この豆腐トーク。
恐ろしく饒舌になった久々知くんを見てああ聞くんじゃなかったと思ったのはいうまでもない。



ALICE+