「いらっしゃーい。美味しいお団子はいかかでしょうかぁー」
大きな声で客引きをしている私だが、決してドクタケを辞めたわけではない。絶賛アルバイト中なだけである。
ドクタケ城での仕事がないときは、私は町でこのようにアルバイトをしてお金を稼いでいる。とはいってもそれは偶にで人手不足のドクタケは毎日がてんてこ舞いだ。私としては働いたら働いた分だけお金が入るので嬉しいことなんだけど、しぶ鬼やふぶ鬼は父親と中々ゆっくり過ごすことが出来ないので寂しそうな顔をすることがよくある。私はそういう時決まって二人に言うのが、親が働いてるだけありがたいことなんだよという私の人生から生まれた意見だ。家で何をするでもなくぐうたらしている父親ほど、鬱陶しいものはない。だったらまだ忙しそうにしている姿をみる方が幾分もマシだ。
「お団子だって!ねえ食べようよ」
「まったくしんべヱはしょうがないんだから」
「どっかに小銭落ちてないかなー」
見たところドクたま達と同じくらいの男の子三人だが、客になり得る者にはたとえそれが年下であろうと関係ない。私は営業スマイルで「お団子はいかが?」と聞いた。我ながら完璧な笑顔だ。
「お団子二十本お願いしまーす!」
「そんなに食べるの?!」
「だってお腹空いてるんだも〜ん」
二十という数字にそばかす眼鏡っ子が目を丸くしたが、私は内心ぽっちゃり気味の男の子にすごく感謝した。これはバイト代がアップするぞ。
爽やかな笑みが厭らしい笑みにならないようこらえ、「かしこまりました」と三人組にいった後私は店主にお団子二十本を注文した。
「店長、あの子供たち、いい金蔓ですよ」
「こらこら。そんなこと言うもんじゃねえよ」
と言いつつも店長は注文が入ってから終始ニヤニヤしっぱなしだ。そういうとこ、嫌いじゃないですよ店長。
「ほい、お団子二十本」
「うへへ。渡してきまーす」
外の椅子に座っている三人組にお団子を差し出すとぽっちゃり気味の男の子は口から有らん限りのよだれを垂らし「美味しそ〜う」と言った。そんなによだれを垂らすほどだろうか。まあ店長が聞いたら喜ぶだろうから後で教えてあげよっと。
「ん!美味しい!」
「本当!」
「そうでしょうそうでしょう!なんてったってこの漉し餡がうちの売りですからねえ」
「お姉さん商売上手っすねえ」
「えー?誉めても何もでませんよ?」
やや上から目線だが猫目の少年はなんとも嬉しい言葉を言ってくれた。商売上手か…私ってば事務だけでなく接客まで出来るなんて才能に溢れすぎでしょ。しかもお、お姉さんだなんて……!ドクたまのクソガキ共に聞かせてやりてえ!とくにしぶ鬼!アイツは呼び捨てはまだしもたまに「くたばれクソババア!」って言ってくるからなあ。まあ、私も「うるせークソガキ。うんこ踏んじゃえ」とか言ってるから人のこと言える立場じゃないんだけどね。ほら、年功序列っていうし。
「そういえば、最近ドクタケ城の戦が減ったのって、凄腕事務員が入ったからなんだって」
そばかす眼鏡っ子がふと思い出したように言った言葉に私はどきっとした。ドクタケってうちのお城じゃん。
「へえ、誰に聞いたんだ?」
「利吉さんが言ってた」
「あ〜、だからドクタケ忍者見かけなくなったんだ」
「そういうこと。まあ、稗田八方斎の顔を見なくていいし、トラブルにも巻き込まれないからこちらとしては万々歳だよね」
「棒々鶏?美味しそ〜う」
「しんべヱよだれよだれ!」
ぷふっ、八方斎さま超嫌われてるじゃん!ぷくくっ!ヤバい笑いが止まらない。まあ、あんな頭でっかちな上に態度もデカいオッサンうざいわな。
それにしても、私が巷で凄腕事務員と謳われていたとは知らなかった。この噂を聞きつけたどこかのお城からスカウトとか来ないかな。
「ふふふ」
「どうしたんですか?」
不気味な笑みを浮かべる私にそばかす眼鏡っ子が首を傾げながらそう訊いてきたので私は何でもありませんよとはぐらかした。
「乱太郎きり丸しんべヱじゃないか」
「あ、利吉さん!こんにちは!」
「いらっしゃいませ」
新たな金蔓、発見。
お客様は神様仏様お稲荷様。老若男女問わずお持て成しの精神は忘れません。
頭の中にその文字が浮かんだ私は最上級の笑顔で三人に声をかけた(乱太郎きり丸しんべヱっていうんだ)青年に接客した。ふむ、着ている服もボロくないし何か出来る男って雰囲気がプンプンするからきっと羽振りがいいに違いない。そんな失礼なことを考えていると、私の顔をみた青年は目をぱちくりと瞬かせた。
「君はあのときの!」
「えっと、あの時とはどの時でしょうか?」
「あ、いや。なんでもない。気にしないでくれ」
「はあ、そうですか」
気にするなと言われたら気にしたくなるのが人間の性というもの。はて、私の知り合いにこんな人いたかな。あれか、小さい頃近所に住んでた次郎くんか。いやそれともこの前してた花売りのバイトで花を買ってもらったとか?
考え悩むこと五秒、いくら記憶を辿っても思い出せそうにないので諦めよう。
「お兄さんはお団子いかがですか?美味しいですよ」
「じゃあ、三ついただこう」
「毎度あり!」
うへうへという下卑た笑いがでそうになるのをこらえ私は店長に団子三つを注文した。
にしても、さっきからあの青年の視線が痛いほどつきささっている。自意識過剰とかではなく、本当に穴があきそうなくらい見られているのだ。
出来上がった団子を受け取り、「どうぞ」と差し出すと青年はハっとし「ありがとう」とやや堅めな表情でお礼を言った。
「……」
「あの…」
「なんだい?」
「お、お口にあいませんでしたか?」
難しい表情のままお団子を頬張るもんだから不安になった私は恐る恐る青年にそう訊ねるとそんなことないとすぐに否定してくれた。
「すごく美味しいよ」
「よかった。ありがとうございます」
こんな不味いもんに金払えるかクソボケェ!って言われるかとヒヤヒヤしたわ……。
「君は……ここで働いてるのかい?」
「へ?ああ、普段は違うとこで働いてます。今日はバイトです。それがどうかしましたか?」
「そうか……いや、いいんだ。よかったら名前を教えてもらえないかい?」
「…?みょうじなまえです」
「私は山田利吉だ。また食べにくるよ」
懐から巾着をとりだし代金を払った利吉さんは、颯爽と人ごみのなかに消えていった。なんだったんだ一体。
「ん?」
渡された代金をよくみるとなんと、余分に払われていた。しかもかなり。これは、お釣りはいらないぜベイベーという意味で受け取っていいのだろうか。なんて素敵な紳士なんだろう山田利吉さん。
「私たちも帰ろっか」
「そうだな。御馳走様でした」
「ああ待って!乱太郎きり丸!」
「またのお越しを〜」
ホクホクした気持ちでちびっ子三人を見送った後、店長に「お金余分に貰っちゃいましたえへへ」と報告すると店長は「よかったじゃねえか!余分はとっときな!」と何とも気前のいいことを言ってくれた。ありがとう店長大好き!
それにしても山田利吉さんは一体誰なんだろうか。お釣りを受け取らないなんてクールすぎる。
明日ドクたま達に今日あったことを自慢してやろう。
そんなことを考えながら私は午後のバイトにも精を出した。
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