君は鳥になりたい


「わたし、鳥になって自由に空を飛びたい!」

白を基調とした部屋で同じような色のベッド
に寝転んだ彼女は僕が遊びに行く度にそんな
ことを何度も言っていた。        

その度にできたらいいねと当たり障りのない
返事をしていた僕だけど内心馬鹿なんじゃな
いかと思ってた。            

だってまずそんな夢叶うはずなんてないし鳥
になったっていい事ばかりじゃないだろう。

毎日三食栄養に気をつかった今みたいな食事
が鳥になって食べられるはずないし、真っ白
で清潔にこだわった部屋に住む彼女が綺麗と
はいえない森の中や街の電線の上で佇んでる
姿は正直僕には想像ができない。     

強いて言えば綺麗な水の川で暮らす水鳥か何
かだろうか。              

正直潔癖ではない僕に川がどこまで綺麗なの
かよく分かってはいないけれど。     

とにかく鳥になるということは、翼を持つと
いうことは大変なはずだ。        

太陽に近づきすぎて死んでしまったイカロス
とかっていう人もいた気がするし。    

丘の上の大きな建物で暮らす恵まれた彼女が
どうしてそんな現実味もなくて大変なことが
多いだろう夢を語るのか聞いてる僕は全く意
味が分からなかった。          

「わたし、魚になって自由に泳ぎ回りたい!」

今回も当たり障りのない返事をしたが僕はま
すます意味が分からなくなった。     

魚なんて鳥より大変だ。いつなんどき釣り人
に釣られるかビクビクしなきゃならないし、
餌なんかミミズとかよく分かんない虫だよ?

鳥なんかよりもっと自由じゃないじゃない。

水の中でしか生きられないし餌を食べるか川
や海を泳ぎ回るしか出来ない生き物にどうし
て人間がなりたいって思うのさ。     

僕って少し理屈っぽいのかな。      


一か月後の朝いつものように彼女に会いに行
くといつも寝ていたベッドには誰もいなくて
部屋の中も静かでまるでがらんどうの様だ。

どうしていないのかと不思議になって彼女の
お世話をよくしていた白い服のお姉さんに彼
女はどこに行ってしまったのか聞いてみた。

彼女は昨夜眠るように亡くなってしまったら
しい。                 

涙がじんわりと僕の頬を伝った。     

お姉さんが言うには彼女は誰も治すことので
きない難病でこの建物はそういった患者さん
が余生を静かに暮らすための病院らしい。 

誰か教えてくれればよかったのにと思ったけ
どそんなものは今更だ。         

僕が最後に彼女と交わした言葉は、自由にな
れるといいねとかそんな感じだったと思う。

知らなかったとはいえなんて無責任な言葉を
吐いてしまったのかと後悔しかない。   

知っていたからといって気の利いた言葉が出
てきたのかと言われると自信はない。   

けどもただ後悔のみがまとわりついて僕の元
を離れない。              


あれから僕は大人になった。       

今ならば彼女の言っていたことが少し分かる
気がする。               

きっと彼女はあの鳥籠から、あの水槽から元
気になって出ていきたいと願っていたのだろ
う。                  

「わたし、鳥になって自由に空を飛びたい!」

そう言っていた彼女の面影を空を見るたびに
思い出す。               

あれから勉強して医師になった僕は後学のた
めに君に一つ尋ねたいことがある。    

あなたは今自由ですか。


―終―


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