「うん、ずるい」
目の前で繰り広げられる熟年夫婦のようなやり取りを横目に、名前は妹分であるエマと顔を合わせ、そして溜め息を吐いた。
私は、兄である龍宮寺堅が好きだ。誤解のないよう言っておくと、それは決して恋愛感情があるとかそういうのではない。エマのために断言する、絶対にない。
親に捨てられたという境遇の中、少し 産まれた時間が早かっただけという理由で私の面倒を見させられた兄の事が大好きで、誇らしい。彼は妹の私から見ても、立派な兄だ。だからこそ、兄には幸せになってもらいたい。この、誰よりも可愛い、そして誰よりも兄を愛するエマと早く結ばれろ。そう思っている。
兄が心の底から信頼し、尊敬している目の前の男は、私が好意を寄せる相手だ。その彼と兄がイチャイチャしている姿を見せられ、怒らない女がいるだろうか。いや、いない。
いや、私だって兄と彼が仲良くして欲しくないわけではなく、むしろ喧嘩なんてした日には、何がなんでも仲直りしてもらう。仲良しな彼らを見るのは私だって嬉しい。…だけど、
「限度があると思うの!!私は!!」
バンッと机を叩きながら熱弁する名前の横で妹分のエマがぶんぶんと大きく首を縦に振る。そんな妹分達の悲痛の叫びを受け、兄達は顔を見合わせる。その顔には面倒臭いと大きくかかれていた。
「あー…落ち着け、お前ら」
「名前、ほらチョコレート」
好きな彼
「おいし?」
「ん」
良かった、と笑うマイキーの姿に、名前はもうどうでもよくなっていった。チョコレートも美味しいし…、なんて事を思いながら味を噛み締めていると、エマが名前を正気に戻るよう、体を揺さぶる。
「もう、早速マイキーにごまかされてる!しっかりしてよ名前!」
「はっ!」
ついチョコレートの美味しさに流されてしまった。すぐさまマイキーの表情を窺えば、彼は「余計な事を…」と言いたげにエマを見つめていた。
もう流されない、と2人を睨め付けると、彼らは溜め息を吐いた。
「んな事言ってもなあ…」
「俺の横はケンチンだし、ケンチンの横は俺じゃん?」
「だよなあ…」
本当に困った、と言いたそうに顔を見合わせる彼らに、名前とエマは「そういうとこ!!」と机をバンバン叩く。
「堅のそういう、当たり前のように振る舞うトコほんとずるいと思う!」
「そうだよマイキー!ウチだってドラケンの隣に立ちたいのに!」
いつも堅はマイキーの世話を焼く。それは東卍の間でも常識のようになっていて。そんなの、すっごく羨ましいに決まっている。私だって「マイキーの世話を頼む!」って呼び出されたい。なんて告げると、兄は嬉しそうに目を輝かせ、
「そのポジションなら、いくらでも譲るわ!おら、持ってけ持ってけ」
「……そういうの、逆に正妻感出ない?」
「分かる。正妻の余裕を感じる……」
「何なんだよお前ら……」
女性陣2人の勝手な言い分と、自分を見つめる冷めた瞳に疲れ果てたドラケンは溜息混じりに呟く。
「エマ、ここは一旦作戦会議挟まない?」
「そうだね、マイキー達しぶといし…」
あっ、ヒナも呼んで女子会しない?いいねいいね、それなら柚葉ちゃんと赤音さんも…とわいわいしながらその場を後にするエマと名前。
残された彼らは、急に自分達を放ったらかしにする彼女らの背を見つめながら、寂しさと憤りと、そして開放された事への安堵の念を抱いていた。
「…好き放題言いやがって。ずりぃのはどっちだよ」
「でもケンチン、ちょっと嬉しそうじゃん」
「マイキー、お前もな」
そりゃそうだ。気になっている子から、あんなに熱烈にアプローチを受けたのだ、嬉しくないわけない。でも、それでも…譲れないものはある。
きっと、あの子達も気付いているんだろう、自分達が彼女らを想っている事を。だから余計に、やきもきしてしまう。分かっている、分かっている、のだが。
勝手な言い分とは分かっていても、今はまだ、色恋より友情をとりたい。
「いや、でもほんとずりぃよ、エマ。なに俺の名前に甘えてんの?年下特権使いすぎじゃね?」
「いや、分かる。俺も何度、エマに頼られる名前に、ずりぃって思ったことか」
向こうが俺達に嫉妬するように、俺達もあいつらに嫉妬しているのだ。さっきだって、名前がチョコを幸せそうに頬張る姿を堪能していたのに、エマに邪魔された。
あの時のエマの表情、名前は見ていなかったのか?俺への当てつけなのか、にやりと笑みを浮かべてたんだぞ。そしてその表情を見てケンチンが顔を赤らめていたのを見逃さなかった。ケンチンに視線を向ければ、即座に視線を逸らされる。あっ、こいつ…。
「予定通り、中学卒業までは現状維持で」
「了解だ、マイキー」
タケミっちとも話し合った通り、中学生を終えるまでは好きに振る舞わせてもらおう。高校に入ったら、ちゃんと君を大事にするから。
顔を真っ赤にさせ、慌てふためく名前を想像しながら、マイキーは口角を上げた。