風邪から無事復活して学校に来た。教室に入ると、水城君おはよう! 元気になったのか水城! といった声がかかる。
う、わぁ…嬉しい。
ドキドキする心臓を押さえながら返事をする。いい人達だなぁ。
何となくだけど、段々と人見知りが解消されてきてる、ような気がする。涼太と一緒だと沢山の人が寄ってくるから、慣れただけなのかもしれないけど。
二日振りの自席に腰をかけながら思う。
でも、本当にそうだったらいいな。
そう一人で密かににやけていたら、バタバタと二人分の足音が近付いてきた。そのまま机の前に雪崩れ込む。
「なぁなぁ水城! 黄瀬のやつバスケ部に入ったらしいな!」
「只でさえうちは強いらしいのに、これでもっと強くなるぜ」
何と返せばいいのか迷って、そうだな、と一言言う。うちのバスケ部強かったのか。初耳。
凄い人を見たってあいつ言ってたしな。涼太自体が凄い人なのに、その人が感嘆するほどなんだから、本当に凄いんだろうな。
……多分この前見たぱっと見アホっぽいカラフル集団がそれだろうけど。
頭の中にこの前の様子を思い起こす。あの蛙はまだポケットの中にあるはず。
ポケットの中に手を入れたら、固くて小さい物に触れた。紐がついているから間違いない。
これどうしよっかな。捨てようかな。否でもさすがにそれは……他人のだし。
キーホルダーから手を離す。その瞬間、どアップで人の顔が映った。
『わぁっ!!?』
「なぁなぁ、水城のこと響って呼んでいいか?」
へ?
突然の接近に加えて予想しなかった申し出。何でも、今までは涼太が怖くて言い出せなかっただとか。
涼太は全然怖くないけど。そう返したら、お前が想像してる怖いとは違うさと言われた。
「で、どうなんだ?」
『い、いけど……』
「よっしゃ!! じゃあこれからもよろしくな響!」
凄く新鮮なやり取り。
嬉しそうな笑顔を見ると、何だかこそばゆい。
朝来てすぐ涼太に会えないのは寂しいけど、こうして話しかけてくれる人がいるから思ったより大丈夫かも。この世から涼太がいなくなるわけじゃないしな。
あ……でも帰りも一緒に帰れなくなるのか。俺しか知らない涼太を知れる機会も、独占出来る時間も無くなってしまうんだ。
そう考えたら、寂しいって言うか、辛いって言うか。
少しでも傍にいれるだけで幸せって、思いたいのに。独占欲はどろどろと溢れて止まらない。
「響っちおはよー!」
刹那、身体が横に傾いた。一気に汗臭さに包まれる。
そしてこの声は。
『涼太、放してくれないか……』
恥ずかしいし、緊張してならない。あっちにはスキンシップだろうけど、俺には負担が大きすぎる。
だが俺の話には耳を貸す気もないようで、抱き竦めたまま文句を言い出した。
「なんか、随分楽しそうだったッスね」
「響と俺等は友達だもんなー」
「なー!」
おい待て、火に油注いでないかお前等。
「海野と高山ちょっと来て!」
「おー! っと、悪い俺等行くわ」
「後でな響! 黄瀬!」
おい待て、この状況で俺を放っていくのか!?
さっさと去っていった二人に恨めしい視線をぶつける。
何か良い打開策は無いのだろうか。今の涼太は明らかに不機嫌だから、弁解とかするだけ無駄な気がする。否、きっと無駄なんだ。
「……はっ、俺がいなくても平気ってわけッスか」
耳元で苦い声がする。
まるで嫌味のように吐かれた言葉は、やけに頭に木魂した。
その響きに同調するようにズキリと胸が痛む。
前と逆な展開に、嫌な感じがする。
あの時涼太もこんな気持ちだったんだ。笑ってたけどこいつ、本当は傷付いてた。
平気なわけないだろ。寂しいに決まってるだろ。
好きな人の傍に、
『……親友の傍にいたいって思うのは当然だろ』
頑張って、やっと振り絞って出た言葉。
言ってしまえたら楽だけど、きっと言ってしまったらそこが終わり。
親友で充分だから。それ以上は、望まないから。
矛盾した考えだってのは重々承知だ。溢れる欲と、それでいいっていう自制心がぐちゃぐちゃになる。
この前からずっとこればっかり考えてる気がする。
自分の事ばかりで、ごめんな。それでも、一杯一杯なんだ。
「(親友、スか)」
首に回る涼太の腕に触れて俯く。
「……ありがとう」
その表情に、気付けないまま。
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