クロコ、と言う名前を最近よく耳にする。何故かというと、涼太が部活の話をしてくれるからだ。
レギュラー陣は、名前に頭の色と同じ字が入っているのだと涼太から聞いた。そこでやっと初めて名前を知った。(顔は浮かばないけど)
そう言われたら涼太も黄が入っているなぁなんてぼんやり考えながら話を聞いていた。つまりそれは、涼太がバスケ部に入るのは必然だったのだと言っているようだった。
とにかく、何よりも分かる事は、涼太が楽しそうであるという事実。
別にそれは構いはしない。楽しいなら何よりだ。と考えていたのは初めのうちだけかもしれない。
そのうちクロコがクロコっちに変わり、涼太の表情も変わり、もやもやだけが胸を侵食していった。
毎度ながら、それでも、その気持ちが嫌だなと思う。
「黒子っちって本当に凄いんス!」
『……へぇ』
「随分興味が無さそうな返事ッスね」
そんな馬鹿な。むしろ興味はありありだ。
只でさえ凄い涼太に凄いと言わせるクロコと言う人は一体どんな人なのだろうか。背が高くて、頭がよくて、そんな完璧な人なのだろうか。
そんなありもしない想像をしながらうんうんと相槌を打つ。
にしても、クロコ、クロコ……その名前をどこかで聞いたような。いや、バスケ部だから、小耳にはさんだだけかもしれない。でももっと近くだった気もするんだけど。そんなに凄い人ならそう忘れるなんて事は……クロコなだけにクロコダイルみたいな……ないない。自分で思って自分で白ける。
駄目だ、思い出せない。
『んで、涼太はそのクロコくんにお世話になってるわけか』
はいッスと笑う。
『じゃあいつかお礼しないとな』
そう言ってうちの涼太が……とふざけると、どこのおかんだと小突かれた。
「響っちは部活入らないんスか?」
『面倒臭いからいい』
「面倒臭いって、文化部だってあるんスから……」
『いいんだよ。そんなもんより、』
お前といれる時間の方が大事だから。
何故だか言うのを躊躇ってしまった。
こんな台詞、友達同士でだって使うだろ。何で躊躇ってなんか……。
思っているより、気にしすぎているのかもしれない。こんなんじゃ何も出来なくなってしまう。
さすがに良くない。俺にとって涼太は想い人であっても、涼太にとっては俺は友達なんだから、普通だと思ってくれる。うん。
首を傾げている涼太を見据える。
『この時間の方が、よっぽど大切だろ』
存外声は小さかったものの、口に出してみたら、心配していたよりあっさりしたものだった。
心臓はスピードを上げて脈打っている。
頬も、カァッと熱くなっていて、つい俯いた。
だけど、俺の思考に今だけ引かれた二人の間の線が、くっきりと存在を主張してくれたせいか、思いの外すんなりと吸い込まれた。
どうにも焦る気持ちは募るが、そのくらいの楽な気持ちだった。妙に感じる背徳感も無く、涼太に感じる申し訳無い気持ちも無く。
そもそもそう言った気持ちを感じる方が変なのかもしれないが。やっぱ気にしすぎてんだな。
とにかく、只の好きな女の子と普通に話している。そんな気分だった。
珍しく何のリアクションも返してこない涼太を不思議に思い顔を上げる。
なぁ、何で。
何で、そんな顔、してんだよ。
目に映った涼太の表情に、ドクンと、嫌な音が鳴り響いた。
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