『レギュラーになった?』
「はいッス!」

 嬉々として話す涼太は本当に嬉しそうで、こっちまで頬が弛んだ。
 念願のレギュラー。しかし入部してからそれになるのがやけに早かったが、やはりそれは彼の才能が凄かったと言う事なのだろう。
 何にせよ、よかったよかった。

 一人、夕暮れの太陽を背にして歩く。寂しさはまだ残るものの、あいつは今頑張ってるんだと思ったら、甘えてはいられない。
 数日前に教室で見たあの表情(あれは俺のそれととても似ていた)は少し気になるけど、きっと俺の思い違いだろう。
 そうであってくれとも願うが、そうであってほしくないとも思う。とても複雑だ。
 ふるふると頭を振る。

 涼太、どんな風にバスケするんだろう……。
 そう言えば一度も試合や練習を見たことがない事を思い出した。
 何かきっかけがあれば行けるんだけど。何の用も無いのにただ見たいだけを理由に行くのは、ただ邪魔をしに行くだけだと思うし。

 駄目だ、無意識のうちに涼太の事考えてる。
 どうやら凄く重症みたいだ、これは。口許を手で押さえた。

『あぁ、くそ、涼太……』
「涼太って、黄瀬涼太?」
『……え』

 後ろからソプラノの声がかかり振り向く。
 そこにいたのは、金髪で金の瞳を持った綺麗な女性だった。どことなく涼太と似た面影を持った女性は、唇に笑みを湛えて俺を見る。
 首を縦に振り肯定を表すと、彼女は隣に来て上から下まで俺を眺める。何だか品定めされてる気分だ。

「もしかして君、水城響君?」
『何で俺の事、』
「聞いてた通りのなかなかのイケメンね」

 何で俺を知ってるんですか。絶対に見ず知らずの人にまで名前を知られるほど有名じゃない筈ですけど……むしろ静かに生きてるはずですが……。
 湧き出る疑問と共に少し顔が熱くなり僅かに下を向く。イケメンじゃありませんと返すと、そんな事無いと返された。

『すみませんが、どなた、でしょうか? 会ったこと、ありましたっけ?』

 人見知りが発動して上手く喋れない。思ったより小さな声になってしまったが、聞こえていただろうか。
 一抹の不安を抱きながら女性からの答えを待った。
 すると彼女は姿勢を正し、驚きの、しかしああ確かにと納得する返答を返した。

「私は黄瀬涼太の姉です。いつも涼太がお世話になってます」
『へ? 涼太の……?』

 だから涼太と似ているなんて思ったのか。
 にっこり浮かべた笑みは、まさに彼だった。涼太の女バージョンとでも言おうか、故にとても可愛らしい。
 不覚にもドキッとしてしまった。
 夕焼けが反射してキラキラ輝く髪の毛をなびかせて、お姉さんは歩き出す。その後を追うようにして俺も歩いた。
 綺麗だなぁ。
 手のひらには少し、汗が滲んでいた。

「涼太ね、響君の事凄く気に入ってるみたいなの。家に帰ったら響っちが響っちが、って……まあ最近はちょっとバスケの話もしてるかな」
『まさか涼太、変な事吹き込んでないだろうな……』

 俺の事を話しているとは、詳しくは俺のどんな事なのだろうか。疑問が頭に浮かぶより速く口から出た。
 そんな俺にお姉さんはクスクス笑うと、変な事じゃないけど、涼太に怒られちゃうから黙っとくわと言った。

 ……俺の事考えてくれてるのか。
 勝手に緩んでいく口角と、下がる目尻。
 ああ不純だと分かっていながらも、喜んでしまう。
 汗でベトベトになった手のひらをどうする事も出来ず、しかし気にも出来ず、涼太のお姉さんを見詰めていた。お姉さんの向こうに映る、涼太を。
 何だか得した気分になった。


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