ボールをつく音。バッシュが擦れる音。
 先に歩くにつれ、その音は大きくなる。
 バッシュのスキール音、て言うんだっけ。あの音は割りと好きだ。
 理由なんかない。只何となく好き。

 体育館の出入り口から中を覗く。その中にいた人数に、つい声を出して驚いてしまった。
十人、二十人なんて優に越している。
 そうだ、その練習風景はとても辛そうで、伊達に強いと言われてないことを示していた。
 この中から黒子を探すのかと思うと、とても骨が折れる。

 その時、視界の中を黄色が通り過ぎた。

『(涼太)』

 俺の意識は一気にそっちに持っていかれた。当初の目的も忘れて釘付けになる。
 ドリブルしながら走る姿。パスをする姿。
 そして、高くジャンプしてダンクシュート。

『(う、わ……やば)』

 涼太が華麗に着地すると同じくらいに、俺は何故か隠れていた。
 いやいやあんなにかっこいいなんて思っていなかった。想像なんか、超していくプレイ。
 俺の知らない君。いつもの何倍も何倍も、かっこいい。
 胸元をくしゃりと握る。見れてよかったような、だけど複雑な気分だ。
 ちらりと覗くと、マネージャーらしきピンクの人以外に上に女子生徒が沢山いた。進行形で黄色い歓声を上げている。それに向かって笑顔で手を振る涼太を青い人が叩いた。
 途端に虚しくなって、息を吐いた。

「ちゃんと持ってきてくれたんですね、ありがとうございます」
『うわぁ!!! って、黒子か…びびらせんなよ』

 なんか嬉しくなさそうですね。もっと喜ぶかと思っていたんですが。
 突然現れた黒子の言葉に、そんなことないと反論した声は、自分でも分かるくらい元気が無かったた。分かりやすいなぁ俺って。ほとほと嫌になる。
 もう少しポーカーフェイスが上手くなれたらいいんだけど。

『部活中なんだろ? いいのか?』
「本当はあまりよくないですが、大丈夫です」
『どっちなんだよ……まぁいいや。ありがとう』

 プリントを差し出しながらお礼を述べると、やはり黒子は何か言いたげな顔をしていた。けどその口からは何一つとして出てこない。
 沈黙する二人の間に微妙な空気が漂い始めた頃、俺達に気付いたらしい涼太が走って近付いてきた。

「響っちがこんな所に来るなんて、珍しいッスね! 俺を見に来てくれたんスか?」
『や、黒子の忘れ物を届けに来ただけだから』

 俺より大きな涼太が抱きついてきて、後ろに倒れそうになる。それを足で支え、ついでに黒子も俺を支えてくれた。
 こうして見ると、やっぱちゃんと筋肉とかついてんだな。黒子も、制服だとよく分からないけど。スポーツマンなんだしそれもそうか。
 よかった、いつもと同じ涼太だ、とどうしてか安心した。

「てかあれ? 黒子っちと響っち、知り合い?」
「はい。同じ委員会なんです」
「へー」

 俺を解放した涼太は、俺と黒子の顔を交互に見た。
 その表情は、あー確かにと言っていた。そんなに読書好きに見えるのだろうか。
 ぼーっと黒子と涼太を眺めていると、不意に頭に手が載り、髪の毛をぐしゃぐしゃにされた。うわっ、と情けない声が出る。
 こんなことするのは涼太ぐらいだろうと涼太を睨むが、彼は苦笑いを浮かべるばかり。その手は俺の頭上にはなかった。
 じゃあ誰なのだろう?
 その体勢のまま僅かに後ろを向くと、黒くて青い人がいた。この人、この前教室に来ていた。

「おい黄瀬、黒子、サボってっと赤司にやべぇことされるぞ」

 やばいことって何!?
 思わず涼太と黒子を見たら、アカシと言う人物を探しているのか、キョロキョロと周囲を見回していた。かなり不審である。そしてまだ来ていないことがわかると、同時に溜め息を吐いた。
 よかったなと今度は俺が苦笑い。そんなに怖い人なんだな。
 それより、そろそろ手を頭からどかしてほしいんだが……割りと力が強いから縮みそう。
 でもこの青い人、何か怖そうで話しかけれない。
 じっと涼太を見詰めていると、俺の視線に気付いて少し笑った。

「青峰っち、手どかすッスよ」

 黒い人の手首を掴むと軽くどかす。アオミネさんは気の抜けた返事をすると、あっさり手を下げた。そして何事も無かったかのように早くしろよと帰っていった。
 何だったのだろうか。俺、何かしたか?しかし心当たりは全くない。
 あ、そう言えば。ふと思い出してポケットに手をいれる。よかった、入れたままだ。
 それを手のひらに握って黒子に突き出した。

『これさ、緑の人に返しといてほしいんだけど』
「緑の人って、ああ、緑間くんですか……正直あまり得意ではないので、黄瀬くんにパスします」
「えっ……まぁいいッスけど」

 涼太と黒子が背を向けた。
 ああ、待ってくれ。行かないで。

「ついでに文句言ってや、る……響っち?」

 じわりじわりと感覚が戻ってくる。意識が戻った時には、黒子と去ろうとする涼太の腕を掴んでいた。
 不思議そうにする黄色と俺に、俺は何でもないと笑ってみせた。

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