春。受験戦争を潜り抜け、俺は晴れて帝光中学の生徒を名乗る事が出来るようになった。と言っても、どうしてもこの学校がいいというこだわりがあったわけではなく、只ここが家から一番近かっただけの話。
本気で目指して駄目だった人達には、多少申し訳無く感じてる。加えてこんな適当な理由で決めた俺には、未だに将来の展望もない。
正直それでもいいかなと思う。だってまだ中一なんだ。将来を考えるにはまだまだ時間はあると、俺はそう思っている。
時間なんてすぐに過ぎてしまうものだけど。
入学式だった今日。初めての教室は新鮮で、初めての顔、声にはかなりの緊張を覚える。さっきからチラチラと何人かに見られてる気がして、とても恥ずかしい。
何を隠そう人見知りが激しい俺は、既に仲良くなったらしいクラスメイト達を自席から眺めるだけ。
話しかけたいさ、話しかけたいけど、緊張してまともに顔さえ見られない。ったく、困ったもんだよな。
その時、騒がしかった教室が、一気にまた別の騒がしさに包まれた。何事かと皆の視線を追うと、中一にしては高身長で、黄色が目立つ男が入ってきた。
女子はキャーキャーと歓声を上げるし、男子はあいつって……と興味有り気な声を出す。
俺はと言うと、なんか見たことある、とずっと思っていた。
『誰、だっけ?』
金髪君は皆に挨拶しながら、人の波を縫ってこちらに近付いてきた。
……ってこっちに来る!?
ぼけっと頬杖をついて見ていた俺はつい慌ててしまう。
何故か佇まいを正し、えと、えと、とロボットの様にぶつぶつ呟いていたら、金髪君は俺の横の席に座った。
そう言えば空席だったな、と思い出す。
座ってすぐこちらを向いた彼は、笑いながら言った。
「君が隣? 俺は黄瀬涼太、一年間どーぞよろしく」
黄瀬、涼太って。
聞き覚えのあるその名前は、今本屋に行けば嫌でも目に入る名前だった。
『……モデルの?』
「そッスよ! で、君の名前は?」
『水城、響、です』
嫌では、ないけれど。
語尾に行くにつれて段々声が小さくなる。もっとハキハキしろよ自分。女々しくて、嫌になる。
きっと今日一日分のエネルギーを使いきっただろう。触れなくても、頬が燃えるように熱いのが分かる。
ちょっと、かなり俺にはハードルが高すぎやしないか。こんなイケメンが隣だなんて。
「響ッスね、よろしく!」
キャーキャーという黄色い声をBGMに、眩しすぎる笑顔に見とれていた俺は、もう指一つ動かす事ができなかった。
それが、俺と涼太の出会いだった。
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