(side 黄瀬)
何でもない、何でもない。そればっかり。
何でもないわけないって、わかってるんスよ?俺ってそんなに頼りないの?
相変わらず、頭から足まですっぽり固い殻で覆われているような反応を返す響っちを見た。なぜ言ってくれないのかは分からない。その表情はどう見ても、その逆だ。
絶対何か考え込んでる。そのぐらい分からないとでも思っているのか。
心を開いてくれているのは知っている。だけど、その奥には、誰も踏み入れさせない。俺でさえ、入れない。
その殻は丸くて、とても綺麗だ。でも内側は刺だらけで、響っちが傷付けば傷付くほど、外側にも刺が生える。
ぽきん、ぽきん、と一本ずつ折る度に自分にも傷が付く。
構うものか。
むしろ苦しいなら、それを一緒に背負わせてほしい。
生まれて初めて抱いた気持ちだった。本気の恋ってやつ。叶わなくたっていい、と言ったら嘘になる。願わくば叶ってほしい。
だけどさ、これ以上君を傷付けないように、この想いは黙っておくから。
小さな手に、俺の手を重ねようと伸ばした。しかし響っちがキョロキョロ周囲を見回して、それからそそくさと歩き出したことで空を切った。
『早く行こう、午後の授業始まるぞ』
「あ……はいッス」
少しだけ残念に思ったが、顔には出さずその背中を追いかけた。
あまりにも小さく見えて、今にも消えて無くなってしまいそうな背中だった。
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