公園のベンチに座って空を見る。日も傾き、茜色の中に雲が漂っている。怪しい雲行きは、これから雨でも連れてくる気だろうか。
 そこには、何だか面白いくらいに落ち着いてる自分がいた。
 どうせなら早い方がいい。そう思い立ったのは昨日。呼び出したのは今日会ってすぐ。部活が終わり次第来てほしいと告げた。
 嬉々としてはいッスと返してくれた涼太に、ツキンと胸が痛んだ。
 こんな時に冷静な自分に、腹が立った。
 だがしかし、そうでなきゃいけない。欺くのは得意ではないから。

 もうそろそろかな。携帯で時間を確かめていると、涼太が後ろから抱きついてきた。確認しなくたって分かるようになってしまった。

「響っち可愛いッスわ」
『……喧嘩売ってんのかおい』

 しまったと言いたげな顔をして、違、違うッス!! と焦って言う涼太。いやそれ確実に小さいって意味だよなおい言わなくたって分かってんだよ……。

「やっぱ落ち着くッス……」

 顎を頭に置いて更に力を込めてくる。
 たったそれだけなのに、揺らいだ。その声に、言葉に、温度に。
 何でお前はそうも簡単に崩していくんだ。
 駄目だ、忘れるな。
 どうにかして落ち着かせて、口を動かした。

『離せよ』

 そうだ。あくまで冷たく。この暴れだしそうな激情は中に抑え込め。
 涼太がどんな顔をしても、どんな事を言っても、決して面には出すな。
 涼太の腕を掴んで振りほどく。状況整理が追い付いてないらしい涼太は、簡単に離れた。

『俺は、』

 壊れてしまえば、もう、戻らない。
 振り返って目を見据える。
 畜生、何でこんな時に限って笑顔なんか思い出すんだ。涙が出そうだった。

『お前がずっとずっと嫌いだった』

 ずぶり、ずぶりと想いにナイフが刺さっていく。それを掴み、更に奥深く、突き刺す。

『どうせ本当は俺のことを、自分の引き立て役だって思ってたんだろ?』
「っ、そんなこと思ってない!!」
『嘘だ! どうせ内心じゃ俺を嘲笑ってたんだ……いい加減うざいよ』
「違っ…!!」

 戸惑う涼太の表情がどんどん歪んでいく。悲しいって思ってくれてるのか、嬉しいな。頭の片隅で思う。
 比べてたのは、俺の方だ。勝手に比べて、勝手に劣等感を抱いていた。勝手に好きになって、勝手に切なくなって、勝手に泣いた。俺は、自分勝手の塊だ。

『……お前なんか、大嫌いだ』
「……っ、そうかよ……悪かったッスね、これまで迷惑かけて」

 吐き捨てた台詞。止めの一突き。
 涼太の顔が見れなくて俯く。
 傷付いた顔をしているだろう。きっと俺も。俺が傷付いちゃいけないのに。一番痛いのは涼太な筈なのに。
 気付く前にどこかへ行ってくれ。頼むから。
 強く念じていたら、遠ざかる足音が耳に入った。よかった、ホッと息を吐く。伸ばしそうになった腕を強く押さえた。

 それと同時にポツリポツリと雨が降りだした。どんどん土砂降りになり、容赦なく俺を叩く。
 涼太のためなんだ。これでよかった。
 ああでも困ったな。もう、後悔してしまいそうだ。
 口元に嘲笑が浮かんだ。涙が止まらない。
 ズタズタにしたこの想いをどうやって捨てようか。


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