「おい響、お前黄瀬と喧嘩でもしたのか?」

 そう問われて早一分。俺は机に顔を突っ伏してずっと黙っていた。
 海野と高山はお互いに顔を見合せ、疑問符を頭上に浮かべている。
 どうやらまだ噂にはなっていないようだ。と言っても、あの公園は決して人通りが少ない訳ではない。もしかしたらあの場に誰かがいたかもしれない。そうならば、時間の問題だろう。むしろ早く早くと急かしたいくらい。
 二人には申し訳ないが、昨日帰ってからも暫く涙が止まらなかったせいで、目が真っ赤なのである。顔を上げたくない。

「朝も何も会話無いし、それどころか顔さえ合わせない。お前等が変なのは確かなんだよ」

 指先だけが動いた。

「……海野、もう詮索は止そうぜ。言いたくないことだってあるだろ」
「けどさ、」

 納得して無さ気な海野の声色からして、心配している様子が目に浮かぶ。ごめん。
 優しいな。自分の腕に爪を立てる。
 俺の口から聞かなくたって、そのうち嫌でも耳に入るさ。
 周り全ての音を消すように、強く目を閉じた。





 次に俺の目が開いたのは、高山の「昼だぞー」という声を聞いてから。そんなに寝てしまったのか。慌てて起き上がり、涼太は、と黄色を探した。
 そして気付く。
 ……何やってんだ。もう、関係無いだろ。
 頭を振って溜め息を吐いた。
 それでも我が儘な俺の心は、沢山の女子に囲まれて笑う涼太を見る度に痛い痛いと悲鳴をあげる。まだ、消えない。
 もう一度顔を伏せた。そう言えば、妙に寒い気がする。そんなに気温が低い訳じゃないのに。大方昨日雨に打たれまくったせいだろう。あの後ちゃんと拭かないまま部屋に行っちゃったから、風邪を引きだしてるんだ。

『(そりゃ、引くわ……)』

 まだ湿った感覚が消えない。昨日の全部が体に残っている。
昼御飯を食べる気にもなれず、俺の前に座る優しい友達二人に余計心配をかけてしまった。涼太といい二人といい、どうしたらこんなに優しくなれるのか。
 友達だからなんか勝手に、自然と心配していると皆言う。てか何でそんなこと言うわけ? 普通じゃん。と返されたときは困った。俺は今まで壁を作って生きてきたから心配してくれる友達なんていなかった。だから、余計に思うんだろうなぁ。

 今の状況こそまさに、恩を仇で返すって言うんだろう。
 ……いつかは、謝りたいさ。例え涼太から拒絶されるようになっていても、せめて、涼太に届けば。謝って、ありがとうって言いたい。
 その頃には、涼太の横には可愛く笑う彼女がいたりするんだろう。今まで俺に向いていた笑顔も何もかも、彼女が独り占めしてしまうんだろう。そしてそれを情けなく見詰めて、涼太を黄瀬とか呼んでる俺がいるんだろうな。いいじゃないか、それこそ俺が望んだ事だ。
 想像したら、昨日ナイフが刺さった所がズキンと痛くなった。
 俺って本当に馬鹿だよな。


0808


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