誰もいなくなった教室。涼太が隣にいて、俺を見詰めている。
『(懐かしい黄色の瞳)』
にっこりと笑っては、俺の手を掴み引き寄せた。真正面から抱き締められたのは初めてだと思う。すっぽりとその腕の中に収まってしまうほど、俺の身体は小さかった。
『(いや、何やってんだ……!)』
はっと我に帰り、もがき抵抗する。
早く離れてくれと涼太の胸板を押しても、全然びくともしない。それどころかより強く閉じ込められてしまう。
どう見てもスキンシップでは納められないこの状態。誰かに見られでもしたらどうするつもりなんだろうか。
文句を言おうと口を開くが、声が全く出なかった。一体何が起きてるんだ。
これは嘘か、本当か。夢か現か。
ん……夢……? そうか、これは夢だ。
そう理解した瞬間、慌てていた自分はどこかに行ってしまった。
とうとうこんな夢まで見てしまうなんて。相当重症のようだ。
恥ずかしくなって、目の前の胸に額をあてて下を向く。
好き。
『(嫌い)』
腕がほどけて、頭を数回撫でられる。その手はゆるりと輪郭をなぞり、俺の口許まで落ちた。ぐいと上を向けさせられ、涼太の親指が唇を滑る。
どうしよう。
呑まれていくのが自分でも分かる。熱を帯びて、首から上が異常なほど熱い。
好きだ。
『(嫌い)』
ぎらついた瞳に捕らえられて指一本動かせない。今、俺が独り占めしてるんだ。それがずっと頭を支配して、ちょっとした優越感に浸る。
整った顔が近付いてきて、俺もゆっくり目を閉じる。
無意識に涼太の腕を掴んでいた。
好き。
『(……好き)』
小さな温もりに触れる。それは何度も角度を変えて押し当てられ、やがて残り香を残して離れていった。
とても穏やかな心境につい笑みが浮かぶ。それと共に、無性に泣きたくなった。
ごめん、ごめん。ごめんなさい。
何に謝っているのか、全部に謝っているのか。離れてしまったことで寒くなった身体を抱き締めて、口だけを動かして喋る。
いつの間にか涼太は消えてしまっていたけど、ずっとずっと謝っていた。
*
目が覚めたら、もう夕日が出ているような時間だった。まだ覚醒しきってない頭で教室を見回す。俺が寝始めてから誰かが来たような感じはなく、ずっと一人だったようだ。
よく眠れた。最近全然寝れなかったしな。欠伸をして俺がここにいる目的だった日誌の続きを書こうとシャーペンを握った。
ふと気付く。俺、窓閉めたか? 最初に日誌を書いちゃおうかと思って、座って……。
ううん、やっぱり閉めてない。じゃあ誰か来たってことか?
『……ま、誰でもいいか』
そう言えば、何か凄い夢を見ていた気がしたんだけど、何だったかな。懐かしいって感じて、胸が温かくなったのはよく覚えている。確か人がいたと思うんだけど。
シャーペンを滑らせながら考えるも、書き終わる頃にはすっかり忘れてしまっていた。
『(あ、この匂い……知ってる)』
立ち上がるときに鼻孔を通り過ぎた匂いには覚えがあって、ぽつんと立ち竦んだ。
0824