(side 黄瀬)
「おい黄瀬!」
「な、何スか青峰っち」

 放課後会って早々、切羽詰まった表情の青峰っちに詰め寄られた。その拍子に持っていたボールを落とす。
 俺が一体何をしたって言うのか。心当たりがありすぎてどれか分からない。

「貴様、まさかとは思っていたが、本当に男に手を出すとは……!」

 続いて緑間っちまでもこの状態。紫原っちは興味がないのか、俺が落としたボールを拾いながら、変わらず御菓子を貪っている。
 男に手を出すって、もしかして響の事?
 一つの結論に結び付いたが、もうとっくに気付いているんだとばかり思っていたから、正直俺の方が驚いている。特に青峰っち。
 横から更にぐちぐちと文句が聞こえる。胸胸言ってるだけで無頓着そうに見えてもそうではなかったって「女だけじゃ飽きたらなかったのかこのクソ! クソ野郎!」……否、無頓着ではあるのかもしれない。ついでに蹴りも入ってきた。
 あの、ねぇ、流石に酷くないスか。確かに女を取っ替え引っ替えしてた時期もあったけど。つか痛い滅茶苦茶痛い。
 ん? ていうか気付いてなかったんだったら、

「皆何で知ってんスか? 俺と響のこと」

 ピシリと、場が固まった。ただ二人、黙視していた赤司っちと何時の間にか来ていた黒子っちを除いては。あははは皆顔やばいッスよとか笑い飛ばせそうにない空気だ。言うなれば、こいつ……マジかよ……みたいな。
 まぁこんなもんだろうなと予想はしていた。これが一般論かと言えば、きっとそう。俺達にとってはもはや今更、気にするだけ無駄に等しいけど。
 すみません黄瀬君僕の一言で、と黒子っちがぼやく。成程出所はここか。

「否、別に構わないけど」
「お前達は慌て過ぎなんだ」
「逆にお前とテツは冷静過ぎなんだよ!」
「僕に至ってはほぼ当事者ですしね」

 腕を組んで、やれやれと肩を竦める隣で、僅かに口角をあげながら黒子っちが言う。
 そうだ。黒子っちには一番御世話になったんだ。思い返すと、もしかしたら一番迷惑もかけたかもしれない。
 じっと黒子っちを見ていたら、何ですかと首を傾げられる。

「やー……黒子っちにどう御礼をしたものかって思って」

 軽く頭を掻く。
 知らぬ間に協力してもらったり、怒られたり、相談にのってくれたり……本音を言えば感謝してもし尽くせない。
 ただのもので終わらせられないし、言葉だけなんて論外だ。
 しかし黒子っちは首を横に振る。

「黄瀬くんが響くんを幸せにしてくれたら、それだけで十分です」

 ドサッ。
 黒子っちの言葉が終わるや否や、出入口から何かが落ちる音がした。皆してそっちに目を向ける。先には、鞄を下に落とし、これでもかと言わんばかりにプリントを握り締めた響がいた。
 じわじわと頬が色付いていく。
 どうしたのなんて口にするより先に、足が動いた。すると慌てたように、背を向けて走り出す。あっ逃げた!
 赤司っちの溜め息と同時に、俺はスピードをあげた。

「あー、なんかもう、うん。ごっそさん……」
「他所でやれ他所で」
「二人が良いなら良いんじゃない? めんどいし」

 残された人達がそんな会話をしているとは露知らず。


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