(side 黄瀬)
 響っちとの間は以前の様に戻った。あれはあの日限定の雰囲気だった、と言うか。
 とにかく良かったと思う。
 好きな人には嫌われたくないなんて当たり前だし。

 俺は水城響が好きだ。実はずっと前からの俺一人だけの隠し事。
 先日まではどうにかして誤魔化そうとしてたけど、認める以外には道がなさそうだった。だって俺の視線が、感情が、手が、違うと言ってくれない。
 だって男が男を好きになるなんて、普通有り得ないって皆思ってる。多分、響っちにも気持ち悪いって言われるだろう。
 傍にいれるだけで充分、なんて言ったらかなり嘘になる。恋をすると臆病になるってのはよく言われてるけど、今までここまでそうなる事はなかった。
 好きになったらすぐに手に入れたくなる。でも結局手にしたらしたですぐ飽きちゃってさよなら。そんな事を繰り返してきた。
 だからだろう、自分がこんなにも恋愛に恐怖しているのがおかしかった。そして新鮮。

 募る想いの捌け口として取っ替え引っ替え女の子と遊んでみるけどモヤモヤが増えるだけで。いつも残り香を纏うこんな欲だらけの汚い俺を、誰より響っちに知られたくない。
 嫌ならするな、って言われると思うけど、こうでもしないとそのうち響っちをどうにかしちゃいそうで。
 何も知らない真っ白な彼を、俺の色で染めたい。俺で一杯にしたい。
 俺は束縛しない娘が好みだけど、割りと自分が束縛する方かもしれないな。
 嘲笑が出る。

 そう言えばこの前凄い人を見た。黒くて青くて、何がって上手く言えないけど、もうとにかく凄い。
 その人はバスケ部で、俺にも真似出来そうにないプレーを体育館で見せていた。それを見た時、つまらない学校生活が一気に明るくなった様だった。
 バスケか……そういやした事なかったな。
 あの人と一緒にバスケをしてみたい。その膨らむ気持ちは抑えられそうに無かった。
 響っちに相談してみて、その結果で入るか否かを決めよう。

「にしても、今日は遅いなー響っち」

 ちらりと時計を見る。いつもならもう来てる時間なのに。
 これはもしかして。
 ポケットから携帯を取り出すと、案の定メールが一件。
 内容は、風邪を引いたので休みます。一文のみ。
 やっぱりそうだった。てか、なんて微妙な時期に風邪なんか……。
 机の横に掛けていた鞄を取り、そのまま教室を出た。人の流れを逆流し、あっという間に外に出る。
 響っちがいないんじゃ、学校来たって楽しく無いし。
 そう思うのと同時に、水城家への道を歩きだした。


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