重い。足取りも重いし、腕にかかる重量も重い。
 ただひたすらに重い。
 三年間もずっと運んでいるのだから勿論慣れてはいるのだが、今日の体育の内容がバレーだったのだ。腕が完全に疲れきっていて、はっきり言うと怠い。
 今手に持っている籠をステージ前まで持って行けば済むんだから、頑張れ自分。なんて渇を入れてみても、足が随分ゆったりと動くのであまり意味がない。

「名前」

 体育館の半分を進んだ頃、聞き覚えのある声が私の名前を呼んだ。そりゃまあね、ずっと一緒に過ごしてる幼馴染みの声を聞き間違えるわけがない。
 が、悪いけどここは無視だ無視。どうせ大したことじゃあないだろう。

「おい、待てよ」
『……』
「っ、待てっつってんだろ名前」
『……』

 完全無視を決め込んで、ゆっくりペースで足を進めて行くと、段々声が近付いてきた。
 さすがにそろそろ振り向かないと不機嫌になるか。無視を諦めて振り向こうとしたら、突然ずっしりとした重みが腕から消えた。同時に手の痛みも消え、手のひらには籠の持ち手の後だけが、赤くくっきりと残っていた。

「お前なぁ、辛いなら言えよ」
『や、別に辛くなんか』
「嘘吐くんじゃねぇよ轢くぞ」

 人が文句言うたびに轢くだの刺すだの物騒なことを言う幼馴染みの名前は宮地清志。家が近く、登下校はいつも一緒だ。
 何だかんだ言うわりに優しいから、ちょっと戸惑うときもある。
 そして、彼は人の変化によく気付く。
 今だってそう。端から見たらただ単にゆっくり進んでいるだけにしか見えなかっただろう。しかしそれに気付いた。
 どうせ今日あった体育で腕が疲れてんだろ、とか言う清志の後を追う。

『ねぇ清志、何でわかったの』

 清志は空いている片手で頭をがしがしと掻いた。んー、と唸った後、口を開いた。

「何年お前と一緒にいたと思ってんだよ……き、気付かないわけ、ないだろ」

 言っていて段々恥ずかしくなってきたのか、途切れ途切れに言葉を話す。
 そうだ、こいつは恥ずかしがりやなんだ。照れ屋なんだ。
 少し笑うと、頭を掻いていた手で軽く叩かれた。
 痛いと言ったら、笑ったお前が悪いと返ってきた。はい、尤もです。

 何か言えば物騒なことを言う、けど優しい。そして照れ屋っていう可愛さ。でもバスケしてるときは誰にも負けないくらいかっこよくて、輝いてる。
 贔屓目あってのことかもだけれど。

『ありがとう』
「……どういたしまして」

 ぼそりと返ってきた返事に胸が暖かくなる。
 ああもう、もっと好きになっちゃうじゃないか。
 弛む口角を引き締めず、先を行く清志の背を追いかける。
 他の事とか、何も考えられなくなってしまう。考えなくていい、と頭に声が響く。
 もうずっと片想いしてるけど、下手に行動してもしも関係が崩れるなんてことになったら、それこそ絶望的だ。触れるか触れないか、ちょっと触れてるか、そんな距離感を保っていた方が、ずっと一緒にいれる気がして。
 駄目だ、本当に考えれなくなった。まったくべた惚れじゃないか。


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