好きな人がいました。
 その人は幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた人でした。
 友達以上恋人未満。揺らぐことない関係。
 喧嘩してもすぐに仲直りできます。お互いに遠慮せずにぶちまけてすっきりするからです。

『宮地』

 ずっとこうしていられる気がしました。
 でもそれは私だけだったみたいです。
 所詮は幼馴染み。そこまでです。

「何だよ」

 彼女は私の知らない彼を見る。知る。触る。
 それらはもう私だけのものではなく、彼女だけのものになってしまいました。
 その手を握るのは私じゃない。
 その腕に抱かれるのは私じゃない。

『おめでとう』

 泣いてなんかいません。だって幸せなことじゃないですか。
 あの不器用でぶっきら棒な彼に、彼女ができた。
 こんなに喜ばしいことはありません。
 彼が幸せならそれでいいです。私だって、いいです。

「……おう」

 だから泣いてなんかいません。
 でも、きっと笑えてもいません。
 泣いているという人もいるかもしれません。
 でも私は泣いてないと言い張ります。

『あ、照れてる』

 甘えてたんです。
 きっと変わらないでいれるだろうって思ってたんです。少し離れた隣で歩いていける気がしてたんです。
 大馬鹿者です。無くして気付くんです。

「照れてねぇよ」

 でももう、今更想ったって伝わらないのなら、捨ててしまっても構わないだなんて。思いたくても思えません。
 何よりも大切な気持ちです。
 だけど優しいあの人に申し訳ないです。唯一それが、胸につっかえます。
 私って、何でこうなんだろう。訊ねても答えなんかありません。私は私にしかなれないから。
 泣いてなんか、いません。

 もう、泣いてなんか、いません。


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