何と言うか、一言で言ってしまえば、彼はまるで掴み所がない人だと私は思う。ひょっこりと出てきたと思ったら、気付けばするりとどこかへ行ってしまう。差し詰め指を通り抜ける水のように。
そんな全く掴めない彼だから、私はそれが何故だか悔しかった。
ゴッドエデン。普通に見たなら、そこは自然が生い茂る楽園。緑が陽光を浴びて生き生きと輝き、動物達が自由気ままに活動している。
だが、フィフスセクターにより、それは一変する。シードをうみだす地獄へと。ここで過ごしたことがある人ならば、きっとおよそ楽園だとは言えないだろう。
何匹かの小鳥がさえずり、飛び回る。そしてその小鳥達を眺める少年が、一人。
『シュウ!』
彼は、さっき私が掴み所がないと言っていた少年である。
パッと見、全体的に黒い。髪も、服も、瞳も。真っ黒だ。
私の声に気付いたシュウは、振り向いてこちらに笑顔を向けた。例えるならば、天使のような笑顔。は流石に言い過ぎかもしれないが、それ以外に例えようがない。
シュウがまたどこかへ行ってしまわないように、しっかりと細い両手をホールドした。
「どうしたの? ナマエ」
『最近シュウがすぐにどっか行っちゃうから、暇なの』
サッカーはそこまで得意ではないので、エンシャントダークにもアンリミテッドシャイニングにも入ってない私は、実際は常に暇なことに変わりはない。だが、そんな暇なときにいつも構ってくれるシュウが、最近めっきり構ってくれなくなったから、余計暇を持て余しているというわけだ。この辺りでよく見る子山羊と遊ぶくらいでしか、暇を潰せない。
せめてこの手で捕まえておきたいのに、捕まってくれない彼は、拗ねる私を見て笑うのだった。
「ごめんね……だけど、僕にはやらなくちゃならない事があるんだ」
私に向かってそう言ったシュウの顔は、いつにも増して楽しそうで、苦しそうにも見えた。
しかし、私じゃない何かがシュウの心を支配しているのがつまらない私は、シュウに抱きつくことしか出来なかった。
突然回った腕に、顔を見なくてもシュウが驚いているのがわかる。ナマエ? と不思議そうに言う彼に、さらに強く抱きついた。
絶対に捕まってなんて、くれないのに。そう、分かっているのに。
『大好き……』
ぽそりと小さな声で呟く。きっと聞こえているだろうが、気にしない。どっちだろうが構わないから。
シュウの首元に顔を埋めて小さく呻く。そしたらシュウも私を抱き締め、耳元で囁いた。
「僕も、愛してるよ」
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