「お前、サッカーサッカー五月蝿いんだよ!」
『そう言う矢野は野球野球五月蝿いわよ』
そう名前にきっぱりと言われて反論出来なくなった。
確かに俺は、親父が大の野球好きってこともあって、野球が好きだ。勿論野球部にいる。
そんな俺を最近スポットが当たりだしたサッカー部の円堂がスカウトに来たのだ。なぜか。
そしてこれまたなぜか隣にいる名前。なんでいるんだよ……。
「円堂。俺にサッカー部に入ってほしいなら、サッカーの楽しさを教えてくれ」
気を取り直してそう言うと、あぁ! 勿論さ! と元気の良い返事が返ってきた。
そう簡単には負けないさ。俺だってお前と同じで、野球が好きだから野球をしてるんだから。
はたしてサッカーとは、野球以上に面白いものなのか。あまりしない俺は残念ながらよく知らない。だからこれから教えてもらう。
……だが、
『負けちゃうんじゃないの?』
「名前は黙ってろよ」
いつまでいる気だろうか。
名前がここにいたんじゃ集中できない。それこそあっさり負けてしまう。
なぜかって? ……そんなの知るかよ。
しかしこいつはここにいる気のようだ。
はぁ、大きくため息を吐いたら、バシンと背中を叩かれた。
『頑張んなさい! サッカーしてようが野球してようが、私はずっと矢野を応援し続けるから』
……は……っ、わざとか?わざとなのか!?
ワンテンポ遅れてそっぽを向く。顔に熱が集まり、とても名前 を見ていられない。
たったこれだけなのにすっげぇ動揺してんじゃん、かっこ悪いな俺……。
どうしようもなくドキドキする。不整脈だ。どうしよう。
そんな、好き、とか……そんなんじゃないはず。名前はただの幼馴染みなんだから。
それよりもこの破裂しそうな心臓をどうにかしてくれ……。
さらに追い討ちをかけられるとは知らない俺はこの感情を何とかしようと思い、もう行くぞ! と可愛げの欠片もない台詞を残してグラウンドへ行こうとした。可愛げなんてなくても構わないが。
『何しててもかっこいいから大丈夫、球児!』
そんな俺の背中に届いた言葉に、俺はいろんな意味で生死を彷徨った。
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