君は優しい子だから。だから自分から身を引いたんだよね。
 短いようで長い間、ずっと片想いで、それで終わってしまったけれど。
 素直に凄いなぁ、と思う。そして少し、彼の想いが向かっている人を思い浮かべて溜め息を吐いた。

『流架、気になるの?』
「……名前」

 どこにいるかなんてわからない彼女、佐倉蜜柑のことを想う流架に、ちらつく雪を振り払いながら近付いた。
 私だって助けれるものなら助けたい。だけれど、これは彼女が決めたことなんだから、と言っては動こうとしない。
 なんだかんだ言っても私だってずっと片想いだったのだから。もう佐倉さんを見てほしくなんてないから。酷いやつだとは思う。こんなことを言ってしまった日には、私は棗や今井さん、流架やその他大勢の手によって消し炭と化していることだろう。

『佐倉さんは、棗が助けてくれるよ』

 私は助けれない。こんな気持ちじゃ助けられない。

『……本音を言えばさ、私ずっと佐倉さんに憧れてた。でも私じゃ佐倉さんみたいにはなれない。何が足りないかなんて、そんなことじゃなくて、全く違うから』

 そんな当たり前なことを呟いて、ふと思った。
 佐倉さんみたいになれたら、流架は私を見てくれたのだろうか。
 いいや、そんなことはないだろう。絶対に。

「俺は、佐倉みたいに振る舞うんじゃなく、名前らしくそのままでいてくれた方が嬉しい」

 そのままの名前が好きだからさ。
 ぎしりと踏みしめた雪が鳴く。
 好き……好き、か。
 意味を知ってしまっているから喜ぶに喜べない。嬉しい、はずなのに。
 今からでも、少しだけでもいいから、振り向いてほしい。
 そんな日は一度も、来ないと思うけどなぁ。


120425



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