夜、空には満天の星が輝いて、町を僅かに照らしている。都会の空は濁っているから、果たしてこれを満点の星空と呼んでもいいのか分からないけれど。それでもずっとここで過ごしてきた名前には、今見ている空は正しくそれだった。
 そんな星空を静かに見上げている二つの影は、河川敷に腰を下ろしていた。

『綺麗だね』

 今の気持ちを率直に告げた名前に、首を縦に振る風丸。
 久しぶりに会った二人は、どういう訳か、星空を見に行こうという予定を立ててここに居た。
 天の川は七夕にしか見えないと言う人はよくいるが、実際はそうじゃない。今こうしてみている空にも天の川は輝いているのだ。
 ただ輝きが小さいだけ。でも、たったそれだけでも、織姫と彦星にとっては辛いことだったのだろう。
 風丸は相変わらず元気な名前に、少なからず安心をしていた。メールでやり取りをしていた昨日は、どことなく元気がなかったように感じたから。何故かは分からないが、そう感じた。
 しかし、やはり気にかかるところがあった。

「何かあったのか?」
『……え?』
「否、名前が辛そうだったから」

 名前は目を見開いた。
 昔から鋭いとは思っていたのだが、今まさにそう思うことになった。
 まさか自分の僅かな変化にさえ気付くとは、微塵も思っていなかったのだ。

『やっぱり敵わないな』

 空へ向けていた視線を川へと下げて話しだす。水面に映り込む星を再び眺める。

『子供の頃は、努力したらなんとかなるって信じてたんだ。でも努力だけじゃどうにもならないことってあるでしょ?』

 大人になると、昔より大きく立ちはだかるものだね。
 見たくないものまで見えてしまって、見たいものは見えなくなる。言いたいことも言えなくなるから、そのうち、分からなくなってくる。
 加えて呟いた名前を見た風丸は、そんな名前の手を握った。
 弾かれるように顔を上げた彼女に、優しく笑顔を向ける風丸。

「もう少し、ここにいないか?」
『……うん』

 星空は変わらずに、二人を照らし続ける。
 風丸の肩に頭を預けた名前は、静かに涙を流していた。


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