(双子設定)
 また涼太が忘れ物をした。お弁当だ。
 大きく溜め息を吐いた私は、自分の分を鞄の中に入れて、その上に涼太のお弁当を入れた。
 きっと朝練に遅刻しかけて急いでたんだな、なんて勝手に思いながら家を出た。きっと、というか絶対だな。
 またあいつの教室に行かないといけないのかと思うと、気が進まないが仕方ない。折角作ってあるんだから、それを食べないなんて勿体ない。
 あくまでも涼太の為ではなく、お弁当のためで為ことを忘れてはならない。
 そう、すべてはお弁当の為だ。



『涼太、忘れ、』
「名前ー!!」
『五月蝿い!』

 お弁当を渡そうとしたら飛び付いてきた双子の兄を蹴飛ばすと、いいぞ黄瀬妹ー! と歓声があがる。
 毎度のことで慣れたが、このクラスでの涼太の立ち位置が少しだけ心配になる瞬間である。弄られキャラで定着しているのだろうか、このモデルは。
 そう、兄の黄瀬涼太はモデルをしている。無駄にイケメンだし、何故か性格もいい。バスケではキセキの世代、なんて持て囃されてもいる。
 私はというと、この双子にいいところを全て持っていかれてしまった。唯一の自慢と言えば、金髪と、同じ色の目だろうか。よく綺麗だと言われる。

『毎回毎回お弁当忘れるの止めてよ』
「だって急いでたから……」
『だってじゃない!!』

 半泣きになって見上げてくる涼太をぴしゃりと一喝する。ほぼ毎日のようにお弁当を忘れているのだから当然だ。それをわざわざ持ってきている私を誉めたいくらい。

「名前には毎日悪いとは思ってんスよ?」

 どうだか、と鼻を鳴らす。
 そう思うならしっかりしなさいよ。毎日毎日忘れるなんて、馬鹿なことしてないでさ。
 これでも心配してるんだから、と思っても口に出さないとわかってはくれないしな。
 てかこんなに忘れ物してたら、将来結婚したときに奥さんに呆れられちゃうよ。
 そう考えたら、少し胸がズキッとした。
 あれ、何で。何でこんなに寂しいって思ってるの。涼太のことなんだから関係ないでしょ。
 いきなり黙りこんだ私を眉をハの字にして見つめてくる兄に何故か悔しくなった私は、とにかく何か言わないとと口を開いた。

『あのね涼太、私だってずっと涼太の側にいるわけじゃないんだから』
「……え」

 途端にパッと見変わらないが、さっきよりも歪んだ表情になった涼太。寂しげにしている子犬みたいだ。

『いつかは誰かと結婚して、涼太とは離れるんだよ? 泣いたって私は知らないよ?』
「な、何でそんなこと言うんスか……名前は俺の妹でしょ……?」
『あのね、涼太も誰かと結婚して、私から離れて』
「絶対嫌ッス!!」

 慌てだす涼太に呆れ顔をしながら言っていたら、いきなり涼太が立ち上がって叫んだ。
 ちょ、ここは家じゃないんだから。あと嫌ってなによ……。
 反論しようとしたら急に抱き着かれて、何も言えなくなった。

「名前と離れるなんて、絶対、やだ……」
『……なんでもう泣きそうなの……あとやだって、子供じゃあるまいし』
「まだまだ子供ッスよ、俺も名前も」

 ちょっと、私までいれないでよ。
 いつか笠松さんが言ってたことを思い出した。黄瀬はどが付く程のシスコンだと。
 その時は馬鹿なんじゃないかと思っていたが、私も大概のようだ。
 だってこんなに寂しがってくれる兄に、嬉しいって思ってる。気付いたら涼太のことばかり考えてるし、何だかんだで涼太に甘いことも知っている。
 笠松さん、黄瀬妹もブラコンのようですよ。そう言っておかないと。

 全ては最愛の兄の為、私はお弁当を届けます。


240913



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