始めて鬼灯水月という人物を見たとき、ただ、綺麗だと思った。水の中で息をする彼は、差し詰め人魚だろう。足が魚っぽい。
暫く水槽に張り付いてこぽこぽと下から上に上がる泡を眺めるふりをして、水月をひたすらに見詰める。
だが残念ながら私には関係ないから、彼のことは知らないと理由をつけてその場を去った。事実知らなかったわけで、今もよく知らないわけだが。
そして今、大蛇丸を殺したと言ううちはサスケ、そいつに連れられた香燐、重吾と共に私の前に現れた。
何故ここに来ただとか、何故私が必要なのかとかをわざわざサスケさんが説明してくれていたが、全く頭に入ってこなかった。
「という訳なんだが」
『行きます』
話なんて聞かずに直ぐ様二つ返事を返した私に、皆一様に驚いていた。
あのサスケさんまでもが。
そんなこんなで、久しぶりに外に出た私。正直あんな辛気くさい所にずっといたくはなかったから、その理由でもありがたい。
日が眩しくて、腕で太陽を隠す。
うん、この感覚久しぶりだ。私は今生きている。なんて当たり前の事を改めて思うと、嬉しくなる。
何よりもあの鬼灯水月が近くにいる。なんだか陸に上がった河童みたいになっているが、やはり綺麗だと思う。
陽射しで透けた銀の髪に、透けそうなくらいの、ノースリーブからのびる露出された白い肌。
触りたい。うずうずする腕を必死に抑えて皆の後ろを追う。
「ったく水月テメェちゃっちゃと動け!」
「五月蝿いなー香燐は」
さっきからこんなやり取りばかりを目に入れなければ、もっと幸せだったのだが。
ずっとずっと疼いている胸をきゅ、と押さえて俯く。
仲良いな……羨ましい。
私は水月を知らないけれど、香燐は水月を知っている。ただそれだけの差が埋められない溝を作っている、んだと思う。
知りたいなぁ、もっと。その前に話してみたい。
揺れる影から視線を上げると、バチッと音がしそうなくらいしっかり目が合った。
他でもない、鬼灯水月と。
吃驚して目を逸らすが、あまりにも不自然過ぎた。どうしよう。
うろうろと行き場のない視線を彷徨わせていたら、一人の歩みがゆっくりになった。
「ねぇ」
ぴくりと肩が揺れた。
『……』
「君って、あの時水槽にへばりついて僕を見てた娘だよね」
どうして、知ってるの。
弾かれたように顔を上げ、水月を見る。きっと今の私は困惑した表情をしているのだろう。
だってあの時水月は目を開けていなかった。
「苗字ナマエ、だっけ?」
『なん、で、知って』
まさか名前まで知られているとは思わなかった。
どうしよう、凄く、嬉しい。
たったこれだけの事なのに目頭が熱くなる。ぎゅっと目を瞑ってそれを耐えた。
こんな時何て言えばいいんだっけ。ずっと人と会話なんかしなかったから、もう分からない。
まるで酸欠な魚のように口をぱくぱくさせて、言葉を探す。見つからない。探す。何を言うの?
水月も、んーと顎に手を当てて眉間に皺を寄せていた。
口下手だとかそんな問題じゃなくて、本当に頭が真っ白で何も考えられない。
よく転けずに歩いていられるものだ。多分体は、ほぼ無意識に動いているのだろう。
その時水月が顎に当てていた手でピストルを作り、何か閃いたような顔をした。
「僕がナマエに、興味をもったから、かな?」
『興、味?』
「そう、興味。君をもっと知りたくなって」
その言葉にたいした意味は無いだろうけど、私の顔は面白いくらい熱くなった。
私も水月のこと、もっと知りたいです。なんて言えるわけなくて。私はまた黙りこんだ。
すると水月はくつくつと笑った。
「これから沢山教えてもらうことにするよ。遠慮はしないからね」
240922
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