初めて会ったとき、初めて彼とファイトしたとき、衝撃が走った。赤い髪を揺らしながらコールしていく姿に見惚れたのをよく覚えている。
彼の名は雀ヶ森レン。AL4のリーダーで、PSYクオリアの持ち主。なんでも、カードの声が聞こえる能力らしい。そんな能力があれば、勝つのは容易いだろう。
そのたった一回だったのに、魅せられてしまった。
なんて素敵な人なんだろう。
そしてそんな素敵な人にのこのこついてきたわけだが。その時も何も言われなかったし、今も何も気にすることなく過ごしている。
決して認められた訳ではないが、矢作さんみたいに相手にされてないわけでもない。矢作さんごめんなさい。
ヴァンガードは……勿論出来ないわけではない。現に一度だけレン様とファイトしたことがある。
私の扱うクランはオラクルシンクタンク。Q4のお姉さんよりも弱いのは確かだ。
『あ、レン様』
段々気分が沈んでいき、とぼとぼと廊下を歩いていたら、少し先に赤が見えた。
キョロキョロと周りを見回していて、どうやら誰かを探しているようだ。
手に持った袋を握り締め、レン様に近付いた。
『どうなされたんですか?』
「ナマエですか。ああいえ、ちょっとアーちゃんを探してて」
お腹が空いてしまったんです。
そう言って苦笑するレン様を見て、気分が高まる。
今私の手中にあるのは、アサカさんと一緒に作ったレン様専用クッキー。甘さ控えめで作ってある。
さすがはアサカさん、よく分かっている。そろそろレン様がお腹を空かせる時間だから、ナマエが持っていってくれないかしらと渡されたのだ。
今回は譲られた、と言う方が正しいだろう。私も頑張らないと。負けてられない。
『あ、の、レン様! これよかったら食べてください!』
ラブレターさながらにクッキーを渡す。
アサカさんからじゃないから受け取ってくださらない、はないと思うけど。きょとんと私を見る目に少しばかり心配になる。
どこに持っていけばいいのか分からなくなった視線を彷徨わせていたら、手から袋が消えた。そしてそれはレン様の手に。
「ありがとうございます」
へらりと笑いながら早速袋を開けて食べ始めた。
よかった。受け取ってくれた。
安心して大息をつく。このくらいでビクビクしてるようじゃ、いつまで経っても想いは届かないな。
「これは、いつものと少し違いますね」
しかし不安はまた襲いかかる。
本当に、本当にちょっとだけアレンジを加えてみた。僅かな変化に気付くなんて、アサカさんのクッキーの味をよく覚えてらっしゃるんだな。
なんだか負けた気分になる。今度は溜め息を吐いた。
すると何かが頭の上に載った。それは無造作に動く。
『レ、レン様?』
目線を上げたら、
「これはこれで美味しいです」
優しく笑うレン様がいた。
やっぱり綺麗でかっこいい。一気に頬に熱が集まる。
それは誉め言葉なんだろうか。少々腑に落ちないが、私に笑いかけてくれたことが嬉しくて、口元が緩んだ。
とりあえず今日は、勝ったことにしておこうか。
250119
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