『ありゃー、これまた随分と沢山貰ったねえ君達』
部室の扉を開けたら、中はチョコの匂いで一杯だった。
こうも甘ったるいと、いくらチョコ好きと言えど鼻を塞ぎたくなる、と名前はしかめっ面をする。
ちょっと前までは邪険に扱われてたサッカー部がまさかここまで人気になるとは。
試合での素晴らしい活躍。あるいは整った容姿故の人気。今じゃ好意を寄せていない人の方が少ないくらいだった。
あははと苦笑いを見せる部員一同に、さっさと着替えるように促した。
*
空はとっぷりと暗くなり、部活に勤しんでいた生徒達がそれぞれの帰路につく。
帰る方向が同じである名前と風丸は、こんな時間に女子が一人で帰るのは危ないという理由から一緒に帰っている。風丸も中性的な顔をしているのだから危ない気もするのだが、と思ったが、敢えて何も言わないことにした。
今日はどうだった、とか、何が出来た、とか。そんな他愛のない話を続けながらも、名前はずっと一つの話題を切り出せずにいた。
しかしその視線はずっとあるものに向けられているため、口に出さなくても理解は出来た。
「鞄が気になるのか?」
ふわりと吹いた風に青緑を揺らしながら風丸は言う。
風丸自身もこんなに貰ってしまうとは思っていなかった様で、その表情は苦笑いを作っていた。
『豪炎寺や鬼道に負けず劣らずって感じ?』
「否、あいつ等の方が多いだろ」
第一俺はそんなにモテるわけでもないし。
それだけ想いの詰まったチョコを貰っておいて何を言ってるんだ、と名前は呆れる。無自覚なのか、はたまたわざとか。
風丸が敏感なのか鈍感なのか、たまにわからなくなる。ただ興味がないだけということかもしれない。
『じゃあ、これはいらないかな』
提げた鞄から袋を取り出して、半ば言い聞かせるように言う。
一杯一杯で悲鳴をあげている風丸の鞄を見ると、何だか申し訳なくも感じる。だが受け取ってもらえるかはまだわからないのだ。
もしかしたら、もしかすると、あぁと言われるかもしれない。
風丸の性格からしてそれはないだろうと名前は思うが、彼の優しさに押し付けてしまうのはもっと申し訳ない。
出したはいいけど、どうしたものか。
二本の指で袋を揺する。
返事がない。やはり、躊躇っているのだろうか。
ちらりと動かした名前の目の先にいたのは、俯いた風丸だった。心なしか、その頬は赤く染まっている様で、名前もつい動揺してしまう。
「俺が貰ってもいいのか?」
『……風丸の為に作ったんだから、貰ってくれないと困るかな』
「じゃあ、遠慮なく」
風丸の手の上に移動した袋は、鞄の中ではなくポケットにしまわれた。
やはりスペースが無いのかと思った名前は鞄に入れないのかと訊ねる。
「名前から貰ったチョコは特別だから、一番に食べたいんだ。ここなら見失わないだろ」
『か、ぜ、え……それって』
少し速足になったポニーテールの後を、プリーツを揺らして追いかけた。
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