ジッ、と見られている。
 これは決して、推測でも憶測でもない。事実だ。
 監視とは全く違うが、それはずっと私を見ている。
 エイナムやレイザもきっと気付いてはいたのだろうが、面倒ごとに巻き込まれるのは御免だという意識の方が強いのだろう。各自部屋で休んでいる仲間を頭に思い浮かべる。斯く言う私自身もそうだった。
 しかし私も人間だ。我慢の限界くらい来る。インカムの電源を入れ、それだけに届くように声を出した。

「いつまでそうしている気だ、ナマエ」

 突然耳元で声が響いたことに驚いたのか、彼女の肩はビクリと跳ねた。慌てたように謎の動きをすると、小さな声で私の名前を呼ぶ。

「毎日そうやって此方を見ているが、何がしたいんだ」
『な、何も、したいわけではなく、ただ、あの』

 目に見える距離にいるのだから直接話した方が早いだろうと、煮え切らないナマエに近付く。ナマエはぎょっとしたように私から距離をとっていく。
 どういうことだ。何故逃げる。
 インカムを切って変な声を以て叫びだす彼女の背を追った。追うと言ってもこのスペースには壁があり、逃げるのにも限界がある。何が言いたいかと言うと、私より鈍いナマエを捕まえるのはゲームに勝つより容易いと言うことだ。
 予想通りあっという間に壁際まで追い詰め、両腕で左右の逃げ道を塞ぐ。赤い果物のように頬を真っ赤に染め上げ、ナマエは私を見る。

『退きましょう、アルファ様。エイナムに怒られちゃいますよ』
「ノー。断る。それにもし叱られるとしたらお前の方だ」

 ずっとナマエから受けていた視線を返すように、双眸を見詰める。そしたら、その両目はせわしなく彼方此方に動き出した。構わずに真っ直ぐ見続ける。

『あ、ああああの、その、ごめんなさい見ててごめんなさい』
「何故謝る? 確かに気になって仕方なかったが、別に不快感を抱いていたわけではない」
『へ? 怒ってない?』
「イエス」

 一言そう言ってやれば、不安気な瞳はたちまち溶けて安堵へと変わった。成る程、だから逃げていたのか。先程の彼女の不審な動きにも合点がいった。
 だからと言えど、先日から感じている何故かという疑問が解消されたわけではない。そう、断じて納得はしていない。沸き上がる疑問は萎まない。

「何かをしたいわけではないのなら、何故見る?」

 無理矢理話を戻す。まさか終わっただなんて思っていないだろうな。その意味を込めてより瞳を見詰めると、ナマエはついに動きを止めた。私の呼び掛けにさえ答えない。
 何かしてしまっただろうか。一抹の不安を抱きながら固まった彼女をどうしようか考える。そもそも何故固まったんだ?
 自分の声が小さいのかとナマエの耳元に顔を寄せた時、まるで見計らったかのように、奴等が現れた。

「あらぁアルファじゃない。こんな場所でその子襲ってるんですかぁ?」
「スマートじゃないね」
「襲っ!? ノー! 違う!」


見つめる…対象から視線を離さないでジッと見続ける
題は「確かに恋だった」様より
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