私はただピッピを見に来ただけなのに、何故かこの幼馴染みに遭遇して、バトルを申し込まれて。断ろうにも私のジュゴンが好戦的なこともあり、中々出来ないのだ。
 その上、頑張って強くなってもあっさりとレッドが勝ってしまう。石ころを持ち上げるくらいにいとも簡単に。勿論今回も負けました。何時ものことだと慣れてはしまったが、やはり色々複雑なものがある。
 けれど、今日こそは“次回も”を断ってみせる。

『ねぇレッド。会う度にバトル仕掛けるのやめよう』
「なんで」

 な、なんでって……。そう来たか。
 夜のオツキミヤマに、二人の声だけが木霊していた。ピッピどころか、先程のバトルで元から少なかった野生ポケモンは完全にいなくなっていた。
 不思議そうに首を傾げたレッドに私は肩を落とす。そうだね、あんたはバトルするの好きだもんね。
 しかし私も不思議なのだ。あいつは自分より強いトレーナーとポケモンを探している、とグリーンが言っていたのに。きっとレッドにとって利益など無い。にも関わらず、どうしていつも負けている私とバトルしたがるのか。
 座り込んでピカチュウと戯れる最強のトレーナーを真似て、ジュゴンと共に私も腰を下ろした。

『楽しい?』
「楽しくなかったらやらない」
『レッドの性格からしたらそうよね分かってた』

 愚問だと知りながら、それでも確かめずにはいられなかった。一言でバッサリ切り捨てられてしまうと知りながらも。
 私のポケモン達は決して弱くはない。幼馴染み二人には敵わないが、一応ジムバッジは全て揃っている。そんじょそこらのトレーナーには負けない自信はある。が、私とバトルするよりグリーンとした方が楽しいだろうに。
 依然として視線を相棒に向け続けるレッドを横目で見ていると、不意にその黒い目が私をとらえた。ついピクッと固まってしまう。ピカチュウは空気を読んだのか、私の横にいた筈のジュゴンと少し離れた場所で遊び始めた。
 小さく、レッドは口を開いた。

「会う為、話す為、誰よりも傍にいたいから」
『え、何?』
「ナマエとバトルをしたい理由」

 いつもより饒舌な彼が何を言うのかと思えば、驚いた、ちゃんとした理由があったのか。

『って、ちょっと待っ、わっ!』

 吃驚して反射的に立ち上がった私の手が引かれ、すっぽりとレッドの腕の中に閉じ込められた。
 何その理由。どういうこと。そんなことも訊けないまま、されるがまま。
 うわ、レッドってこんなに大きかったっけ。旅に出る前は私とそう変わらなかったのに。幼い頃から一緒で大して意識しなかったけれど、成長期の男子なんだ。当然、背も高くなるしがたいも良くなる。実感した途端、物凄く恥ずかしくなった。

「次も、また次も、会いに行く」

 ぽそりと呟かれた声に顔を上げると、珍しく柔らかな表情を見せる。狡くないですか。何時の間にそんなに大人びちゃったの。
 そんなの、断れないじゃない。
 赤くなった頬を隠すように、胸板に顔を押し付けた。


諦める…望みの実現が不可能だと思い断念する
題は「確かに恋だった」様より
261203



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