窓の外はとっぷりと日が暮れている。今日の私とお姉ちゃんの分の仕事は終わり、二人で実家への手紙を書いていた。私が家を出るときに物凄く心配そうな顔をしていたことは知っているから、早く安心させたいという気持ちはある。しかし両親に手紙を書いたことが今まで無かった為、文字を書く手はなかなか動かなかった。その反面、今日あったことを嬉嬉として話す私の口は閉じられることはない。

『それでね、今度の休みにリザさんがダリルシェイドを案内してくれるって!』
「そう、良かったわね」

 時折書く手を止めながら、お姉ちゃんは話を聞いてくれている。その度に柔らかい笑みで私を見るものだから少しばかり照れくさい気持ちになるが、それが何よりも私を安心させてくれているのだと理解していた。
 お姉ちゃんだけでなく、レンブラントさんも、リザさんも他の人も良くしてくれる。きっと歳が歳だからというのもある。でもそれ以上に、各々が優しいのだ。
 これだ、とその事実を便箋に並べてみるがそれでも数行しか埋まらない。ここまで書かないといけないなんて言うボーダーは無いけが、流石にこれはなあ、と溜息を吐く。
 ペンの尻で唇を軽く叩きながら考えてみるも、思い出されるのはエミリオの視線と謎の違和感だった。

『……ねえ、お姉ちゃん』
「何?」
『ここって何か、変だよね』

 私の言葉にお姉ちゃんは完全に顔を上げた。ぼんやりと便箋を見ていた私には、それがどんな表情だったのかは分からない。それでも、お姉ちゃんも何かを思っているのは分かった。
 沈黙が二人を包む。
 
 


 期限を損ねないようにするだけ。

 仲良くはなれそうにはないけど、努力なら出来る。何に反応したのかは分からないが、私の中で初めての気持ちが生まれた。

 剣の稽古が終わった後、エミリオはいつもその身程の長さのある剣を腰に庭で座り込んでいる。近くを通り過ぎるメイドはいても、やはり話しかける人はいない。
 小さな姿に近付くにつれ、何か喋っている声が聞こえた。誰もいないのに、独り言だろうか。寂しさがそうさせているのかと、私の中の何かが更に膨れ上がった。

『あの、エミリオ、様』

 思わず呼び捨てにしかけ、咄嗟に様をつける。
 ハッとアメジストの双眸がこちらを向いた。一瞬だけ、何故お前がここにと言いたげに見開かれる。幼い顔のその眉間には、不釣り合いな皺が寄っていた。
 その視線に合わせるように、膝に手を置いて腰を折った。

『失礼ですが、エミリオ様って、いつも一人で過ごしてますよね』
「……」
『私でよければ何時でも話し相手になりますよ。ほら、歳も近いですし、何かと』
「五月蝿い。お前は黙って庭の草むしりでもしていろ」

 エミリオはすぐに私から視線を逸らすと、吐き捨てるように告げた。
 ……は? 今何てった? 自分の方が立場が上だからって、何でこんなに偉そうなの?
 地元にいる友達なら有無を言わさず殴りかかっているところだが、いかんせん相手が相手だ。我慢しないと。ここで下手をしたらお姉ちゃんも家族も悲しんでしまう。
 落ち着け落ち着け。無理矢理に笑顔を作って、飛び出そうな右腕を左手で抑えた。
 
『く、さむしりって……』
「お前の勝手な妄想に付き合っていられる程僕は暇じゃない。下らないことに時間を使っていないで、さっさと仕事を覚えたらどうだ」
『も、もうそ……?』

 って、そんなことより何だって? 人の厚意を、下らない?
 ツンとした態度のエミリオに、その言葉に、我慢我慢と抑えてきたものが湧き上がる。右腕に爪が食い込みそうだ。
 沸点の低い私はいとも簡単にキレた。

『ああそう。じゃあずっと一人でいればいい』






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