明くる日の午後。私達は、各々のヒーロー戦闘服(コスチューム)に着替えて廊下を歩いていた。この広い校内、一つの移動でさえ大変だ。
『梅雨ちゃんのそれは蛙? 凄く可愛いわ!』
「あらありがとう、嬉しいわ」
『そのパンクスタイル、とってもクールね耳郎さん!』
「そ、そうかな」
入学前に要望を申請し、それをもとにサポート会社が作ってくれたものがこの戦闘服だ。着心地や素材の良さは勿論、個性にあわせたサポート機能を備えた優れた一点物なのである。
余程のことがない限りデザインも要望通りなので、見た目そのものにも個性が表れる。奇しくもこのA組の女子は可愛い娘ばかりなのでとてもとても目の保養だ。はしゃぐ皆にキラキラとエフェクトがかかって見える。楽しい。
「水無月さんが一番はしゃいでますわね」
「凄くキラキラしてるね、目が!」
八百万さんと葉隠さんから生暖かい視線を感じる。思わずこほんと小さく咳をした。
てか、うわ〜〜八百万さんの胸元凄く開いてるダイナマイトビューティとはこのことか。葉隠さんに至ってはグローブとシューズだけ。彼女は透明人間なので身に付けているものが宙に浮かんでいるように見える。いや、それは大丈夫なの? だって手と足以外って――いえ、考えるのは止めましょう。
「でも吃驚だったね! まさか本当にオールマイトが先生してるなんて」
『そうね。No.1直々にご教授いただけるなんて、とても光栄だわ』
麗日さんの言葉に目の前に現れたNo.1ヒーロー、オールマイトを思い出す。線は太いわ影は濃いわ、まるで彼だけこの世界から切り取られているようだった。
そもそも何故入学早々に戦闘服を着ているのかは、数分前に遡る。
午前中の日程、昼食を終えた私達は、まああまりに普通の授業だったことにげんなりとしていた。申し訳ないけれど、プレゼントマイク先生の英語とかセメントス先生の現代文とか、ほんっとうに普通の内容だったのだ。その辺はここも高等学校なんだなと思わせられる。
しかしここから始まるのは、ヒーロー科特有の教科、ヒーロー基礎学。その科目名だけでどこかワクワクしてしまうのに、なんと教室に入ってきたのは目下No.1のオールマイトだった。更に加えて「今日はコレ! 戦闘訓練!」なんて言われるものだから、ボルテージの上がること上がること。
形から入ることは大切。ヒーローであることの自覚を持て。そう告げると、オールマイト先生は戦闘服を渡してくれた。
そんな経緯で、私達は今、着替えて演習場であるグラウンド・βに集合していた。各々が思い思いに話をしているけれど、人によっては誰か分からない見た目の人もいる。誰だろうあれ、うーんロボット?
ちなみに轟くんはと言うと、凄く、白かったです。まるで戒めるように氷で覆われた左半身は、尚更白く見えた。何故わざわざ凍らせるのか、その理由を私は知らない。――何となくは察しているけれど。
『ホワイトマン轟……?』
「何だそれ」
ぼんやりしていると、考えていた言葉がポロリと出てしまった。誰も聞いていないと思ったそれに、何故か返事が返ってくる。
『とっ、え!?』
声が聞こえた方を見ると、いつの間にか複雑そうな顔をした轟くんが立っていた。あれ、この前もこんなことあった、ような。
『あれ? さっきまであそこに……』
「お前ボケっとし過ぎなんだよ」
『そ、そんなことないと思うけれど』
そうなってしまうのはある種轟くんのせいであって……って、やめやめ恥ずかしくなってきた。
綺麗なオッドアイがジッと私を見てくる。
な、何だ何だ。コートを羽織っているからと言えど中は水着同然なんですけど。そんなに見られると、とてつもなく恥ずかしいんですけど……。鼓動が速まり、じわじわと頬に熱が集まる。その羞恥心に負けてつい腕を組むように体を隠した。
『な、何かおかしい?』
「いや別に」
何事も無かったかのように、轟くんはフイと目を逸らした。え? じろじろと見てみるが一向にこちらを向かない。本当に何?
私が見る、轟くんが逸らすという謎の攻防を続けていると、最後に緑谷くんが到着し、授業は再開した。
「これから行うのは、屋内での対人戦闘訓練さ」
た、対人。てっきり入試のときのように仮想敵と戦うものだと思っていた。
「敵退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内の方が凶悪敵出現率は高いんだ。そこで君たちにはこれから、敵組とヒーロー組に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!」
状況設定はこうだ。
敵はアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理し、敵を捕まえようとしている。クリア条件は、制限時間内にヒーローが敵を捕まえたり核兵器を処理するか、敵がヒーローから逃げ切ったり核兵器を守り抜くこと。ちなみに組み合わせはくじらしい。アバウトだがお互いのことをよく知らない私達にはかえっていいのかもしれない。
次々とくじを引いていく中、ふと、1つの疑問が浮かんだ。これって1人あぶれるのでは?
『先生。この人数をぴったり割ることは出来ない、ですよね……?』
「いい質問だ! 本当は1回目を終えた生徒から更にくじで選ぼうかと考えていたが、時間もないことだから3人の組を1つ作ることにしている!」
実際は人数制限なんてものはないからね。
にこやかに言うが、プロに言われると重みを感じる。敵が1、ヒーローが多、という光景はよく目にするが、それは単発で事が起こっているから。もしも徒党を組んで攻められれば、それこそ数が逆になることだってあるのだ。肝に銘じておかなければ。
で、気を引き締めてくじを引いたのだけれど。
「すごい! デクくんと燈弥ちゃんだ!」
『よろしくね、2人共』
「(う、うわーー麗日さんと水無月さん!?)」
まさか自分がその組に該当するとは。私、麗日さん、緑谷くんの手にある紙には、全てAと書かれていた。見知った面子だ。少しだけホッとした。
それからオールマイト先生が対戦相手を決めるくじ引きをする。その大きな手が掴み取ったボールには、ヒーロー側にA、敵側にDの文字が。
待って待って? Dって確か?
嫌な予感がする。ある意味火傷しそうな程の熱い視線を向けてくる人がいるのだけれど、もしかして、もしかしなくてもこれは。
恐る恐る3人でその方を向くと、凄い顔でこちら(主に緑谷くん)を睨む爆豪くんがいた。眼力で人を殺せそうだ。
どうしようこれ……やっぱ関わりたくないや……。